ショートショート「街頭インタビュー」

 私は、とあるテレビ局で夜の情報番組の女性レポーターを務めている。街に出て色々なサラリーマンにインタビューする役だ。もうすぐ私のコーナーが始まる。5、4、3、2、1、キュー!

「テレビの前の皆さん、こんばんは。さあ、今日も『これが言いたい! サラリーマン』の時間がやって参りました。今、私は○X駅前にやってきております。今夜のテーマは『管理職はかくあるべきだ』です。あっ、ちょうどスーツ姿のナイスミドルな方が、うふっ、こちらに向かってきているので、あの方にインタビューしようと思います」

 私はカメラの位置を確認しながら、私の方に向かって歩いている中年の男の人に寄っていく。うん、のどの調子もいい感じだ。

「すいません、『情報21』という番組の『これが言いたい! サラリーマン』というコーナーなんですが、ちょっとお時間頂けますでしょうか?」
「ああ、いいですよ。よく観てますよ」
「ありがとうございます。では早速インタビューの方へ行きたいと思います。今夜は、『管理職はかくあるべきだ』ということなんですが、少しご意見を伺いたいのですが?」

 私はマイクを男性に向ける。年の頃は四十五、六って所かな。

「うーん、そうですねえ。やっぱり、管理職は人の上に立つのだから、しっかり威厳を持っていないといけないですよねえ。部下から恐れられるくらいの存在でなくては。軽口を叩いたりせず、締めるべき時にはきちんと組織を引き締め……」
「あれー! 専務、こんなところで何してるんですかー?」

 突然若い男が割り込んできた。なにすんのよ。でもどうやらこの二人は同じ会社のようだ。しかも「専務」って……? なんだこのおじさんも管理職なんだ。

「いやー専務、しっかり仕事してくださいよ。あっはっは」

 なんだこの若い奴。専務に向かってとんでもない口を聞くなあ。あっ、頭をペシペシ叩いたりして。なんて失礼な若造だ。しかしこの専務も威厳が全然無いじゃない。さっき言ってたことはなんなのよ。

「じゃあ、また明日会社でね、専務」

 やっとどっか行ってくれた。生放送にはハプニングが付き物だけど、この場をフォローしなくちゃ。

「えーと、あのー、さっきの方は一体……」
「ああ、彼、我が社の創業者で社長なんです」

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