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元首と産業が入れ替わることで強さを維持するアメリカを理解出来ないサウジとロシア

世界中が新型肺炎でワチャワチャしている真っ只中に、ロシアとサウジアラビアが原油減産問題で合意できずに双方が増産して原油価格が急落するという焼け野原戦法を選択しました。

ロシアの原油減産拒否の標的は米シェール業界
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/03/post-92668.php

世界経済が減速し原油の需要が落ち込むのが目に見えているので、原油生産を減らして価格下落を維持したいサウジアラビアと、産油量・販売量が減ると単価は維持できても総売上が落ちてしまうのが嫌なロシアとの喧嘩ですが、双方の本当の敵はアメリカ合衆国です。

シェール革命によって原油の輸入国から輸出国になってしまったアメリカは、原油価格をコントロールするためのOPECやOPECプラスには加盟せず、完全に自由資本主義を原油の世界でも貫いています。サウジアラビアやロシアとアメリカ合衆国の石油産業が決定的に異なるのは、まさにこの部分であり、政府が国家戦略の一部として原油生産をコントロールするか、純粋な民間企業が利潤のために原油生産するかの違いが存在します。

ロシアもサウジアラビアも、そして大半の産油国も石油産業は国家・政府が一部や全部を支配して、国家が戦略的に行動する手段に使っています。アメリカ合衆国もそのような部分が全く無いわけでは無いにしても、基本的には企業が好き勝手に行う国であり、その企業が外国で市場ルールに基づかない理由で痛めつけられたときにアメリカ政府が干渉してくるくらいです。

そのアメリカのシェール関連企業が一気に拡大して原油を売りさばいたために、OPECなどの原油価格の制御が効かなくなってきました。それはサウジアラビアやロシアにとっては悪夢でしかなく、対抗措置としては自分たちも増産して世界の原油価格を下落させ、シェール関連企業の採算を取れなくして倒産させる、というチキンレースしかありませんでした。

それは最初のうちはうまく行きましたが、民間企業がやっていますから倒産しても他の企業が設備や技術を引き継いで、より安いコストで経営して結局アメリカにおけるシェールガス生産は復活してしまいました。

結局、サウジアラビアもロシアもシェールガスの採掘によって苦しめられ、国家財政にも影響が出てしまい、サウジでは皇太子の交代、ロシアでは年金改革による大規模な抗議活動が起きる結果となっています。

結局、国家が関わることで厳しいコスト削減策を取れず、非効率な経営や生産体制が続くことで経費が余計にかさみ、シェールガス企業に負けてしまった、という状態です。

そしてさらにサウジとロシアの対立によって減産どころか増産されることで、さらに両国の財政難は進むことになります。それでもアメリカのシェール業界をぶっ潰せるならいいや、と思って増産に突き進むようですが、そもそもロシアもサウジもアメリカ合衆国とシェール業界を同一視しすぎているような気がします。

もし、アメリカ国内のシェール業界が成り立たなくなると、経済界の利益をある程度代弁しているであろうトランプ大統領にとってはそれなりに打撃になるかも知れませんが、そうなったとしてもいきなりトランプ大統領の首が取られるわけではありません。この点は資源輸出が国家財政にとって最重要問題であるロシア・サウジとは異なります。これ以上財政が悪化するとプーチン大統領も、サウジの国王・皇太子も地位を保てるかどうか分かりません。

トランプ大統領が経済界からも不興を買って再選できなかったとしても、代わりに民主党の誰かが大統領になってアメリカ合衆国は続いていきます。そしてシェール産業に変わってまた何か新しい産業が出てくるでしょう。国家元首も目玉産業も入れ替わっていくのが前提のシステムです。トランプ大統領やシェール業界がポシャったとしても、アメリカ合衆国という国家全体あるいは歴史から見れば、
「だから何?」
という話です。国家がいきなり危機的状況に陥るわけではありません。こういう国だからこそ、長い間世界の覇権を保ち続けているとも言えます。

原油など資源の輸出で財政が成り立ち、強権によって国民も産業も支配している国家から見たら、アメリカ合衆国の国家元首と産業の関係性は理解しがたいものなのでしょうが、例え理解していたとしても国家元首や主要産業が入れ替わっていくということは受け入れられないでしょうね。

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