マーシャルプランならぬコロナプランがもたらす新冷戦

地域・大陸として現時点では一番多くの国で新型コロナウイルスの被害が広がっているヨーロッパでは、少しずつ収束に向けて進んでいますが、破滅的なダメージを受けた各国経済を建て直すための方策が検討され始めています。

仏独がコロナ復興基金提案、5000億ユーロ 返済義務なし
https://jp.reuters.com/article/france-germany-idJPKBN22U2UV
欧州委、約90兆円の景気刺激策を提案-共同債で資金調達へ
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-05-27/QAZH6LDWX2PW01

かつて、リーマンショックやギリシャ財政危機など厳しい経済状況下にあってもEUにおける共同債は導入されませんでした。EUという巨大経済圏が成立してから、ドイツのようにその恩恵を受けて好況が続いていた国にとっては、他国の債務の肩代わりをしかねない共同債は邪魔者でしかありませんでした。厳しい財務規律を保っているドイツや一部の国にとって、放漫財政で破綻寸前になったギリシャなどの南欧諸国の手助けをする義務はない、という考えがありました。

ドイツにしてみれば、第一次世界大戦と第二次世界大戦の間、いわゆる戦間期において、賠償支払いのためでもありますが財政危機に陥りハイパーインフレが起きたことで、結果的にナチスドイツの台頭を招いてしまったというトラウマがあります。戦後の西ドイツの歴史は財務規律を保ってきた歴史でもあります。

しかし、今回の新型コロナウイルスによる大ダメージは、そんなドイツなどの考えを吹き飛ばしてしまいました。

そもそもドイツ経済の好調さも、EU域内における安価な労働力を手軽に調達できることと、無関税でEU域内の数億人にモノを売れることが大きな要因でもありました。

そのEU経済圏そのものが沈没しかかっている以上、ドイツとしては動かざるを得なかったのでしょうし、今回のコロナウイルス対策で支持率が上がったメルケル首相が主導で動きやすい状態だったのは、EU全体にとっても幸いでしょう。

まだこのヨーロッパにおける復興基金がまとまるかどうか分かりませんが、まとまれば第二次世界大戦後にアメリカがヨーロッパの復興のための援助として実施したマーシャルプランのようなものになるでしょう。

マーシャルプランはソ連の影響力を排除する目的もありましたが、今回のコロナ復興基金は中国の影響力を排除することにもなります。中国はそれに対して、アジアとアフリカへの援助で対抗するでしょう。米中間の争いもありますので、欧米対中露とその同盟国たちという新冷戦も考えてしまいます。ただ、20世紀のような物理的な遮断はこのグローバル化した世界ではあり得ません。お互いに非難や無視をしつつ、経済のやり取りは続ける形となって、家庭内別居のような関係性になるのではないでしょうか。

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