帝国主義的領土拡張の限界の理由は人的リソースの枯渇にあるのではないか

国家が帝国主義的野心を発揮して領土を広げても維持できるかどうかは分かりません。むしろ、それを維持する方が大変なことの方が多いかも知れません。

それはかつての大日本帝国であったことですし、今のアメリカ合衆国(強い影響力を及ぼす地域を領土と見なした場合)や中華人民共和国、ロシア共和国も同じでしょう。

ロシアに関しては攻め込まれる不安を消すために、ロシア帝国・ソビエト連邦・ロシア共和国とこの数百年間に渡り領土を拡張し続けました。特にソ連時代は東欧圏に巨大な共産圏を作り上げましたがアメリカとの軍拡競争に敗れ、対米経済格差も広がり続けて冷戦構造を維持できませんでした。ソ連崩壊後は直接的に領土を広げたのは2014年のクリミア半島のみであって、それ以外の地域はウクライナ東部、チェチェン、アブアジア、南オセチア、沿ドニエストルなどでは直轄領を増やそうとはせず、未承認国家などの形で不安定化させるに留まってます。ある意味、直轄領化しない方がロシアの利益になるという見方をしている証でもあります。

アメリカは直轄領自体は19世紀末のハワイ王国を占領してハワイ州にしたのが最後でしたが、20世紀から21世紀にかけて、自分たちの思想と経済の影響を及ぼせる国や地域を広げ続けました。そのために日本だけでなく世界中に基地を設け、多くの軍隊を駐留させています。冷戦後は唯一の超大国となりました。1980年代における経済力における日本の挑戦は退けたが、21世紀になってから成長し続ける中国の挑戦を受けています。また21世紀になってから公然とアメリカに挑戦するテロリズムにも苦しめられています。同盟国や自分たちを守り自由資本主義を広げることで得られる利益と、そのために同盟関係や在外基地を維持する費用のバランスが悪くなってきているという認識がアメリカ内で生まれたのでしょう。世界中に広がった米軍基地・在外米軍を縮小して内に閉じこもろうとするトランプ大統領が生まれたのは、その流れを見ると歴史的必然でもあります。

現在の中華人民共和国は、ロシアとの国境問題は一応ソ連時代に解決しましたが、それ以外は日本、フィリピン、ベトナム、インドといった周辺諸国と領土問題を抱え、さらに国内ではあるもののチベット・内蒙古・ウイグルにおいて弾圧しているとの批判を受けています。日本人の一般的価値観からすると、内蒙古からウイグル族の地域からチベットに至るまで、その辺は中国の領土では無いような気がするかも知れませんが、これはそれなりに理屈があります。偉大なるチンギスハーンが打ち立てたモンゴル帝国はユーラシア大陸において巨大な地域を支配していましたが、そのモンゴル帝国はチンギスハーン死後に分裂しました。そして17世紀から20世紀まで中国の地域を清帝国が支配していましたが、この清は満州地域を発祥とする女真族が建国したものです。その太祖ヌルハチが支配下にあったモンゴル族からハーンの称号を受け継いだことで、モンゴル帝国の後継者としての立場を得ることが出来ました。そこから、内蒙古やウイグルやチベットのような、それまで数百年間モンゴルの支配を受けたり受けなかったりしていた地域に対して清帝国が影響を持つようになり、最盛期には今の中国以上の地域を支配していました。その清帝国から中華民国を経て中華人民共和国として現在の中国が存在しているわけですが、清帝国の最大領土が中国の支配すべき領土であるという主張になるわけです。無茶と言えば無茶ですが、それくらいの主張は世界中の国がしていますので中国だけが無茶を言っているわけでもありません。問題はその領土を維持するために少数民族を弾圧しているところにあります。逆に言うと、弾圧しないと維持できない領土を抱えてしまっているのです。

大日本帝国は明治維新以降、富国強兵・殖産興業のスローガンの元に、日本国内の発展と植民地獲得をし続けました。台湾・朝鮮半島・南樺太と獲得を進め、第一次世界大戦中から中国大陸への進出を公然と行いました。太平洋戦争中は、南方資源の獲得のために東南アジアや南洋(一部はドイツから奪い委任統治を既にしていましたが)にも進出しました。それによって海洋面積も含めると、現在の日本列島の数十倍の地域を支配していましたが、ご存じのように敗戦によって19世紀後半以降に得た領土全てを失いました。

結局のところ、巨大化によって得られた地域から上がる利益、資源があるにしても、長期的に見るとマイナス面の方が大きいのではないでしょうか。19世紀ならともかく、この21世紀では巨大化して核心的地域ではない領土を増やしても、その巨大化自体が周辺諸国やその地域そのものからの反発を招き、少なくとも経済制裁は食らいます。新規の支配地域における反発を押さえ込むのに苦しみます。

ただ、アメリカは今のところ維持できています。中国も苦しみながらも何とか維持できていますが、大日本帝国やソビエト連邦は維持できませんでした。どこに差があるのかと思いますが、一つには拡大前の領土(日本で言えば現在の領土)における経済力・国力が限界点なのではないかと思います。

植民地の獲得によって国が富む面はあるものの、植民地を維持するために必要なコスト・リソースは本国の負担になります。これは単なるお金や資源だけでは無く人的リソースも含みます。どうしたって本国と植民地が同じ国であっても差別的扱いが出てきてしまい、植民地における人的育成が追いつかず、本国からの人的リソースの持ち出しに依存すれば、いずれは巨大化した領土全体を維持できなくなってしまうのではないでしょうか。

アメリカは世界中から移民を集めることで人的リソースの枯渇問題が起きていません。中国は本国地域にとてつもない人口を抱えています。それに比べるとソ連や戦前の日本では人的リソースの限界が早く訪れてしまったのではないでしょうか。そうだとすると、移民を制限しようとし始めたアメリカ合衆国の限界が近付いているのかも知れません。また人口は巨大ですが少子高齢化が間違いなく訪れる中国も厳しい未来が待っているのは間違いないでしょう。

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