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現代国家の権力の正当性の源泉

こないだのnoteで安倍政権の歴史的評価は10年や30年先、と書いたばかりですが、

同時代的な評価もその史料(資料ではなく)になると思います。

安倍政権時代における様々な評価や批判はこれから嫌というほど出てくるでしょうし、現代政治研究の優先事項になっていくでしょうけれど、公文書の保存が日本ではまだ進んでいないのが残念ですね。安倍政権批判の一つでもあった、公文書の取扱い問題ですが、紙の書類だけではなく、WordやExcel、PDFなどの電子ファイルもそうですし、電子メール、チャット履歴も公文書になり得ます。それら全てを残していかなければ、歴史研究は難しいでしょう。この点は欧米に劣っているはずです。

公文書の取扱いがいい加減でも安倍内閣が歴史的長期政権を営めた理由は様々ありますが、権力の源泉、根拠という観点から見れば、安倍政権が存在し続けたのは選挙に勝ち続けてきたからです。

少し前のnoteでも書いたのですが、

まず、2012年の自民党総裁選挙で安倍晋三は党員投票では石破茂に負けたけれど議員投票でひっくり返して総裁の座に就きました。この時点では議員の支持は得ても党員の大きな支持は得ていませんでした。ただ、その年の暮れに、時の野田内閣が解散総選挙を行った際に大勝して政権を奪還したことで、安倍総裁は党内支持を圧倒的に掌握しました。そしてその後も衆院選も参院選も、多少の増減はありつつも自公政権は勝ち続けてきました。

見方を変えると戦に勝てる将軍を兵士が慕うようなものです。だからこそ党員の支持よりも議員の支持の方が大きかったのだと思います。

選挙に勝つことで議員の支持を得て、権力の正当性を維持してきた安倍政権は、ある意味、議院内閣制民主主義国家の究極形(理想形かどうかは別として)かも知れません。

その安倍内閣後の政権運営を担う、自民党新総裁を選ぶ自民党総裁選挙は、党員投票を省くことになりました。

その代わり、議員票と都道府県連票で選出するわけですが、そのうちの都道府県連票はどうやら独自の予備選を開いてドント方式などで3票を割り振るところがほとんどのようです。直接選挙ではないですがある程度は党員の意向も反映されることになりました。それでも議員票の割合が多いので、菅官房長官の優勢は揺るがないでしょう。

自民党の密室政治を批判しているはずの野党である立憲民主党が、合併に合わせて選ぶ新党首を結局議員だけで選ぶ方針を出したことで強烈なブーメランが戻ってきました。新総裁即首相の自民党と単なる野党では重要性が異なる!という擁護も出来なくはないですが、それはそれで立憲民主党は今後も野党だからどうでもいいだろ、という隠された主張で後ろから斬りつけるようなものでもあります。本当の万年野党の日本共産党なんて、幹部批判も許さずトップがずっと変わらない仕組みですので自民党は真逆の在り方を続けているのですし。

野党はともかく、自民党は割合はともかく支持層の意向をある程度は汲み取ろうとしています。自民党や安倍内閣は独裁だとか国民を無視しているとか非難されがちですが、例え独裁であっても支持層の意見を無視することは出来ません。それが権力の源泉だからです。軍隊を握っている独裁者は軍の意向を無視できません。それと同じことは形は違えど民主国家でも成り立ちます。完全に自分一人の意向だけで支配している独裁者など歴史的にもごくわずかでしょうし、そんな独裁者はあっという間にクーデターでやられるはずです。

以前読んだ本ですが、ソ連においても一党独裁国家でありながら民意を何とか汲み取ろうとしていたという研究成果をまとめた本がありました。

ソ連という実験 ─国家が管理する民主主義は可能か
松戸 清裕 著
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480016423/

出来レースかつ監視されている選挙でも有権者が投票用紙に様々な要求を書いていたというのは面白いというか、興味深い話でした。

ちなみに今年でちょうどソ連崩壊から30年です。ソ連の政治制度に関する歴史研究は上記のように今後どんどん出てくるでしょう。それと同じように、安倍政権の歴史研究はもっと先にならないと冷静なものにはならないでしょうけれど、今後どのような評価が下されるでしょうか。


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