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「執着」
彼女は愚かな人間だ。愚かで、そして美しい。
お人好しで自分勝手。
単純でしたたか。
自信家で小心者。
とくに何も考えていなさそうな、でもその頭のなかは考え事が飽和している、そんな彼女に執着した。
いったい彼女の何処が愚かだと言うのか。
それは彼女の全てであり存在そのものだ。
その瞳に映る全て、その頭のなかに住む全て。
人の憎悪を受け入れ、
人の愛を他者へ流し、
自分自身を憎んでいながら、
自分自身を愛していた。
見るもの全てに感動し、
見るもの全てに失望し、
全てを見透かしたようなその乾いた瞳は、
色づきながらも光を失っていた。
彼女は何よりも自分を愛していた。
そんな彼女に僕は執着した。
僕は自分自身を愛することが出来なかった。
そんな僕を彼女は見捨てた。
彼女は愚かな人間だ。
僕も愚かだ。
しかし僕の愚かさは実に醜く、
彼女のそれはどこまでも美しかった。
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