いのちのうみ(2,032字)
「ヤドカリさん、あなた本当に明日、海が明るくなる前にお引越しなさるの?」
「もう何年もそちらのお宅にお住まいだったでしょう。私たち、あなたとはきょうだいのように親しく過ごしていたからとても寂しいわ」
イソギンチャクの姉妹が、薄らと開けた隙間からあぶくをぷかぷかさせてそう言った。身支度をしていたヤドカリは、すっかり家の中に収まりきらなくなってしまった窮屈な体を動かし、軽く感じる背中の貝殻を持ち上げるとイソギンチャクの姉妹に向き合う。
「いやお嬢さんがた、こちらのお宅での暮らし