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【海外HR事情】戦争や社会問題、職場でどう議論する?安心できる職場を作るためのヒント

職場で対立!その時人事部は?

ガザやウクライナの情勢を受けて、米国企業の職場で政治的な議論が高まる機会が増えている。例えばAmazonやGoogleでは、クラウドサービスなどでイスラエル政府との共同プロジェクトの契約があるが、一部社員からは経営陣に対して取引の停止を求める声が上がっている。ユダヤ系、ムスリム系の社員が職場にいる場合や、政治的な考え方が違う社員がいる場合、人間関係が壊れたり、職場でハラスメントや差別が起きることもある。そこまで対立が表面化しなくても、例えばSlackで政治的なメッセージが流れてきたり、電子メールの署名で政治的立場を示す人が出てくると、これを不安に思う社員も出てくる。

2022年にPwCが世界44か国、5万2千人を対象に実施した調査によると、「職場で政治や社会問題について話す」と回答した社員が65%いるのに対し、「政治や社会問題についての考え方が違う人と働くことを、会社が支援してくれている」との回答は30%にとどまっており、全体的に会社側の取り組みが現実に追いついていない現状が見て取れる。SHRMの調査では、政治的な志向を原因に不愉快な目にあったことがあると答えた社員は20%、いじめを受けたと答えた社員が13%いたという。

政治的な議論から職場で対立が生じた場合、早急に手を打つ必要があるが、現場マネージャーの判断で懲戒的な措置を行うのではなく、人事部が関与していくべきであるとHR Diveが論じている。あるHRディレクターは、反ハラスメントの社内規定を制定し、人事部が権限を持っていることを明確にした上で、対立の中身には踏み込まないで「当社では職場でのいじめや、思いやりの欠如を許容しません」とだけ伝えることで問題に介入しているという。

コンサルタントのEthan McCarty氏は、戦争などの場合、次のようなアクションが、社員の安心につながる可能性があるという。

・紛争地域に社員が住んでいたり、出張している場合、安否を確認した上で全社員に知らせる。

・会社として、国際赤十字などの公益団体への寄付を検討する。また、社員が公益団体に寄付する場合、会社がマッチング拠出をする制度を提供する。

Z世代が求める「社会問題へのコミットメント」

企業の側も、社会問題について発言をすることが増えている。171名のCHROを対象に、サウスカロライナ大学が2023年に行った調査によると、社会的問題についての声明を、今後もこれまでと同程度かそれ以上に出していくと回答した企業が70%あったのに対し、社会的声明を出す頻度を減らしていくとの回答は26%にとどまった。社会問題についての声明を出すことが増えているのは、特に若い社員からの圧力が増しているからだ。

Glassdoorが企画しHarris Pollが実施した、1055人の成人被用者を対象とした調査(2023年10月)によると、「自分の勤務先が、自分にとって重要な社会問題についての立場を明らかにしてくれると心強く感じる」という記述に「強く同意する、ある程度同意する」と回答したベビーブーマー世代(1946~1964年生まれ)は51%だったが、Z世代(1997~2012年生まれ)では71%に達している。

また、自分の勤務先ではなく「一般に企業は、社会的、性的問題についての立場を明らかにするべきだ」という問いに同意する人の比率は、ベビーブーマーで23%、Z世代では60%だった。さらにZ世代の場合、就職や退職に際しても、企業の社会的問題へのスタンスが影響することが多いとの調査結果もある。

サウスカロライナ大のナイバーグ教授によると、企業が声明を出す場合、その担当者はCEO、CHRO、相談役、広報部門の長が多い。また42%の企業が、どんなときに誰が声明を出すのか、公式に基準を定めているとしている。基準を定めている企業の多くが、社会的問題が起きてから24時間以内に声明を出している。声明を出すのが遅れれば遅れるほど、社員やステイクホルダーから批判を浴びる場合が増えるのだという。

(出所)
Some Amazon and Google employees want the companies to stop working with the Israeli government, HR Brew, Dec 9, 2023

Ethan McCarty, The Israel-Gaza Conflict and Your Employees, Oct 10, 2023

Workers divided on company responses to Israel-Hamas war, survey shows, HR Dive, Nov 1, 2023

When political disputes arise at work, HR can listen first and then make policy clear, HR experts say, HR Brew, Jul 16, 2022

One in four companies will comment on sociopolitical issues less frequently going forward, survey finds, HR Brew, Feb 14, 2024

From Taboo to Team Talks: Political Conversations in a Changing Workplace, Glassdoor, Nov. 2, 2023


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