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上場企業の人事施策まとめてみた#0001 日本郵政

こんにちは。
人材マネジメント研究所の取り組みとして、統合報告書+有報+女性活躍推進企業データベース+行動計画を読み込み、まとめてみたというなんともハードな企画をスタートしました。
全上場企業を読み込むくらいの気概でいきます。
前職はアナリストだったこともあり、よくIR資料は読んでいたのですが、正直人事施策の部分はほとんど流し読みでした。
読者の皆様と一緒に詳しくなっていければと思いますので、これからよろしくお願いいたします。

①日本郵政の概要

日本郵政グループは、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険を中心に郵便・物流、郵便局窓口、国際物流、銀行、生命保険事業を展開しています。
主要事業の売上構成は、郵便・物流15%、郵便局窓口8%、国際物流3%、銀行業20%、生命保険業51%です。
時価総額は4.73兆円。サービス業における売上高ナンバーワン。24年度における利益は2,686億円。

②統合報告書

まずは、最新の統合報告書(2023/7)をみてみましょう。サステナビリティの項に、人事戦略が掲載されています。

日本郵政 統合報告書

まずは執行役員のコメントとして、以下のようなことが述べられています。

日本郵政グループは「JPビジョン2025」に基づき、「共創プラットフォーム」の実現を目指し、「グループ人事方針」を策定した。
全社員が「誇りとやりがい」を感じる職場を実現するために、ダイバーシティマネジメントや育児・介護支援、テレワークの推進など多様な施策を実施していく。
特に男性の育児休業取得率100%を目指し、育児休業の有給部分取得を義務化した。
また、社員の健康保持・増進にも注力し、病気休暇や不妊治療休暇制度を充実させる。
こうした取り組みを通じて、社員が能力を高め、お客さま本位の視点から強みを発揮できる環境を整える。

日本郵政統合報告書から人材マネジメント研究所作成

人事方針は、以下のとおりです。具体的な内容として、3点触れられています。
①社員が「誇りとやりがい」を感じ、仕事に前向きに取り組める職場環境を提供することを目指す。
②誇りとやりがいを高めるために、社員が互いの違いを認め合い、能力や意欲を高め、強みを発揮できる環境を整え、挑戦を評価する仕組みを強化する。
③社員の能力発揮と意欲向上が事業の発展につながると考え、人事施策を推進する。

人事方針の核として、「誇りとやりがい(エンゲージメント)」というのを推しています。これはグループ社員満足度調査を通し、定量的に把握するとしています。
その核をもとに、軸を3つ定めています。その軸に基づき考え方・目指す姿・具体的な人事施策とそれぞれ紹介しているので、順々にみていきましょう。

人事方針の軸①「異なる互いを認め合う」

考え方:
多様な視点、価値観を尊重する「真の多様性」の実現と、柔軟で多様な働き方の推進を目指す。

目指す姿:
社員が健康を維持し、個々の違いや能力、多様な働き方を認め合い、安心感やイノベーションを創出する環境を目指す。
KPIを以下のようにおいています。育休取得100%に加え、平均日数を指標にしているのがいいですね。男女別でもみて、男性の日数が伸びていくことを願うばかりです。

具体的な人事施策:

具体的な人事施策としては、9点触れられています。これらの人事施策は、多様な人材が活躍できるようにするために、多様なニーズに対応し、働きやすい環境を提供することを重視していることがわかります。社員のモチベーション向上と企業の持続的成長に寄与するも施策がどのようなことかを考え、発信できているイメージです(実態は本当にわかりませんが・・・)。

  1. 健康経営の推進:
    心身の健康を大切にし、健康経営推進体制を構築し、メンタルヘルスケアなどの施策を実施。

  2. 育児・介護・病気療養の両立:
    育児休業の取得促進、介護休暇の充実、病気休暇や休職制度の拡充、働きやすい環境整備。

  3. ハラスメントの根絶:
    ハラスメント相談窓口の設置、ワンストップ相談体制の構築、徹底した予防教育。

  4. 女性活躍の推進:
    女性管理者比率向上を目指し、キャリア支援研修やキャリア開発施策の実施。

  5. 性の多様性への対応:
    ダイバーシティマネジメント推進、LGBTQ+支援策の実施、育児介護休業法の推進。

  6. 時間外労働削減・テレワーク推進:
    RPA・AIの活用による業務効率化、テレワーク制度の導入。

  7. 障がい者雇用の促進:
    障がい者の積極的な採用と職場環境の整備に取り組み、雇用率2.5%を目指している(2022年6月現在2.42%)。

  8. 高齢者の就業促進:
    定年を65歳に引き上げ、高齢社員の能力や経験を活かす環境整備を進め、70歳までの就業機会の確保を目指す。

  9. 人権尊重に関する取組み:
    人権デュー・ディリジェンスの枠組みを導入し、全社員に対する人権研修を実施し、ステークホルダーとの協力を推進。

人事方針の軸②「能力を高める」

DX推進や専門性向上を通じて業務効率化を図り、人材育成につなげていくという姿勢がみられました。書いてあることは十分立派で、本当におこなわれていれば結構手厚く、すごいですね…。

考え方:
挑戦と能力向上の機会提供によるキャリア形成支援と、DX推進とスキル習得、専門性向上を支援する。

目指す姿:
挑戦と成長意欲を重視し、自律的なキャリア形成やDX推進に必要なスキル習得を促す。

具体的な人事施策:

  1. 環境変化に対応した人事諸制度の実現:
    事業環境の変化に対応するため、雇用制度や報酬制度の見直しを実施し、柔軟な労働環境を提供。

  2. DX推進等による業務効率化や新たな業務へのスキル習得支援:
    DXによる業務効率化を図り、新たな業務に必要なスキルを習得するための研修プログラムを提供。

  3. 専門性向上に向けた研修:
    銀行や保険、物流などの専門的なスキルを高めるための研修やコンサルティングサービスを提供。

  4. 挑戦と能力向上を促す自律的なキャリア形成支援:
    社員の挑戦を支援し、キャリアビジョンを明確にするためのインターンシップやキャリア支援施策を実施。

  5. グループ間インターンシップ:
    社員のモチベーション向上と業務間の連携強化を図るため、グループ内のインターンシップ制度を推進。

人事方針の軸③「強みを発揮する」

考え方:
お客さまの変化するニーズに対応し、最適な人材配置と強力な組織を構築するために、適正な人事制度と継続的なスキル向上を推進します。

目指す姿:
最適な人材配置と人材育成を通じて、社員が安心して働ける環境を整え、企業全体の強みを発揮し、お客さまに高品質なサービスを提供します。

具体的な人事施策(抜粋):

  1. 新たなリーダーシップ開発と登用:
    組織全体のリーダーシップ能力向上のための研修プログラムを実施。

  2. 中途採用・外国人採用の積極的な導入:
    多様な視点と経験を持つ人材を積極的に採用し、組織の競争力と創造力を高めるための採用戦略を推進。

  3. 日本郵政グループ内人材交流の推進・戦略的副業:
    グループ全体での人材交流を活性化させ、相互の知識と経験を共有し、組織全体のシナジーを最大化。
    グループの内外から人材を受け入れ・送り出しをおこなっている。

  4. アルムナイネットワークの構築:
    退職者とのネットワークを構築し、企業との関係を維持しながら、再雇用や新しいビジネス機会を創出。

  5. オモカタチャレンジ(社内新規事業提案制度):
    グループの未来につながる新規事業を社員自らが提案できるグループ横断の社内新規事業提案制度「オモカタチャレンジ(想いを形に)」を試行。

③女性の活躍推進企業データベース

まずは、数値をみていきましょう。公開されているものだけを抜き出しています。ちょくちょく男女で差異がありますが、女性の方が早く辞めてしまうというのが背景要因にありそうです。

女性の活躍推進企業データベースより、人材マネジメント研究所作成

賃金格差については、かなり開きがありますが、以下のように差異の要因を分析しています。

<正規労働者>
・ 給与が高い管理職における女性割合が低い。
・ 給与が高くなる主要要素の1つである勤続年数について、男性の方が、2023年4月1日時点で平均勤続年数が約5年以上長い(無期転換制度に基づく無期雇用転換者(アソシエイト社員)は除く)。
< 非正規労働者 >
・ 男性のうち約4割を占める専門職採用者の給与が高い。

④次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画

まだまだ公表されているデータ・人事施策はありますが、これで一旦ラストです。育児・介護との両立について、かなり充実しているイメージです。法で求められているラインを大きく上回っており、十二分に両立ができそうな制度が整っています。

育児関係

  • 育児休業: 子が3歳に達するまで取得可能(最初の3日間は有給)。

  • 育児部分休業: 子が満9歳(障害や慢性疾患等がある場合は満12歳)まで取得可能。

  • 子の看護休暇: 年間5日間(子が2人以上であれば年間10日間)有給で取得可能。

  • 育児時間: 子が1歳に達するまで取得可能。

  • 再採用制度: 育児により退職した者の再採用。

  • 早期役職復帰制度: 育児等を理由として降職した者の早期役職復帰制度。

介護関係

  • 介護休業、介護部分休業: 通算183日まで取得可能。

  • 再採用制度: 介護により退職した者の再採用。

  • 早期役職復帰制度: 介護等を理由として降職した者の早期役職復帰制度

  • 介護補助金制度ぷらす: 指定業者の介護サービス(介護保険対象サービスに限る)使用時に、介護保険の支給限度額超過分を補助。

さらに育児・介護を支援する福利厚生サービスがあります。


⑤考察とまとめ

多様性の尊重と柔軟な働き方の推進を基盤に、社員が誇りとやりがいを持って働ける環境を構築しようとする点でいいのかなと感じました。

具体的な施策として、健康経営の推進、育児・介護支援、ハラスメントの根絶、女性活躍推進など、多角的な取り組みを展開しており、特にDX推進による業務効率化や新たなスキル習得支援は、時代の変化に対応しながら組織の競争力を高める上で重要であると考えられます。
さらに、内部人材の育成や新たなリーダーシップ開発、中途採用や外国人採用の積極的な導入など、多様な視点と経験を持つ人材の活用が進められていることがわかりました。

これらの施策は、社員のモチベーション向上と組織全体のパフォーマンス向上に寄与すると考えられます。KPIをしっかり列挙しているのも、好印象でした。実際の成果を持続的に評価し、柔軟に戦略を見直していく姿勢がみられ、今後も期待できそうです。

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