読書録『問いかける技術』

組織心理学や組織開発の大家であり、「プロセスコンサルテーション」という概念を生み出した著者。ぜひ勉強したいと思いつつも、理論書に向き合って腰を据えて読むのは億劫だと感じていたところ、もう少し優しい語り口の本書『問いかける技術』を発見。ファシリテーターとしても気になるタイトルだったので購入しました。僕にとっては全7章のうち特に最初の2章と、監訳者である金井壽宏先生の解説が良かったです。


謙虚に問いかける

原著のタイトルは『Humble Inquiry』で、「謙虚に問いかける」と訳されています。なぜこれが重要かというと、仕事でも、家庭や交友関係のなかでも、ひとと良好な関係を築こうと思えば、相手を尊重し、会話のなかで相手にいきいきとしてもらうことが必要だからです。

特に上司・部下の関係では往往にして上司優位になりがちですが、上司が話すことばかりしていると部下との間に信頼関係はなかなか生まれません。

本書の中で紹介される次の指摘は、特に上司・部下の関係や先輩・後輩の関係において気を付けておくべきでしょう。

"質問せずに一方的に話すことは、相手を上から見下ろすような格好になるのだ。つまり、「あなたはこのことを知っているべきですが、まだご存知ないでしょうから教えてあげましょう」というのを言外に含んで示唆しているに等しい。" (P. 30)

逆に部下や後輩の立場だと、この指摘は「わかる〜」と共感できますよね。

そこで意を決して、自分の意見をまずはぐっと抑えて相手への問いかけをすることにしたとします。

ですがここでも一つ注意が必要です。望ましいのは「謙虚に問いかける」ことであって、問いかけ方は問わないという訳ではありません。

問いかけには4種類あると説明されます。
1. 謙虚な問いかけ
2. 診断的な問いかけ
3. 対決的な問いかけ
4. プロセス指向の問いかけ

これら4つの間に絶対的な区別が存在する訳ではありません。同じ質問であっても相手との関係性や口調・表情などによっても、どのタイプの問いかけとして捉えられるかは変わります。

望ましいのはあくまで謙虚な問いかけ。「私の中にはたしかな答えがないので、ぜひともあなたの考えていることを聞かせてもらえませんか」という姿勢が重要です。概念的にこれを理解するのはそう難しくはないでしょう。

しかし、実際の場でこのようなあり方でいることは思いのほか難しいかもしれません。なぜならこの種の問い方は、自身の立場を相手よりも下にする、あるいは会話の主導権を相手に渡すような格好になるからです。上司や先輩の立場であれば、部下や後輩に対してこのように振る舞うことに無意識にバリアが働くことでしょう。

だからこそ、意識的に「謙虚に問いかける」ようにする必要があります。

通常は役職や先輩後輩といった立場があり、社会的な規範によってそこに階層という障壁ができてしまっています。それが効率的だという場合はそれでいいでしょう。

しかし、階層にしばられずに自由闊達なコミュニケーションをはかり、チームを活性化させたいという想いがあれば、この階層を意識的に崩すための「社会的メカニズム」が必要であると著者は説いています。


ファシリテーターを立てるだけで場が変わる

こうして見てくると、ファシリテーターの存在の意義が分かるような気がします。

活発に意見交換をしたいときには、謙虚に問いかけ、誰の意見にも真摯に耳を傾けるような議論のリーダーが必要になります。それはまさしくファシリテーターの基本的なあり方です。

ファシリテーターという役割を認めてミーティングの場に設けることで、活発なコミュニケーションを阻む障壁を崩すことができるのです。もちろん、ファシリテーターがそのような問い方・聴き方を身につけていることが前提ですが。
ファシリテーターは、「組織内の自由闊達なコミュニケーションを阻んでいる障壁を崩すための社会的メカニズムである」と捉えてみてはいかがでしょうか。

それからもう一つ、金井先生による解説の中に大きな発見がありました。

“「課題指向 (task-oriented) 」と「人間指向 (personal) 」の対比は、リーダーシップ研究において長年対比されてきた、リーダー行動の基本二次元に関わっている。” (P. 222)

リーダーは、組織が課題解決のために正しい戦略を描き、組織を動かすということが必要です。この「正しい戦略を描く」というのが課題指向にあたり、当然ながら非常に重要です。

しかし、これだけではリーダーたり得ません。「組織を動かす」には人心掌握というように感情を扱う必要があり、人間指向も同等に重要になります。

この2つの指向を軸にとって二次元空間に描き、自身のリーダーシップがどのあたりに座標を取るのかを考えてみると良いでしょう。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?