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船上から見た月が最高だった話

まえがき

毎年夏の帰省はノーマルなものにはしないと決めている。3年前はサークルの大会で京都に寄ったものの当日寝坊して1人で観光したし、2年前は青春18きっぷを購入して中央本線を完乗。去年も青春18きっぷを購入して山陰本線完乗の旅をし、余った1日分を使って房総半島1周の旅をした。台風の影響で鳥取駅で足止めを食らったのは良い思い出である。

今年の帰省はどうしようか。そんなある日にTwitterで7月に開通したばかりの新航路が話題となった。それを知るや否や、私の手は切符購入の手続きを済ませていた。
その名は東京九州フェリー。横須賀と新門司を往復する。貨物航路のおまけに人も運んでくれる。そのため運賃も安く、基本料金(カプセルベッドで宿泊)の場合大人で12000円であった。さらに学割(2割引)が効くので9600円まで割引される。今回の旅は九州に帰省中だったので、Uターンに利用すべく新門司から横須賀に向かう便を購入した。

1日目: いざ出航

9月20日の22時。私は無料シャトルバスを利用するため小倉駅の北口にいた。同志が10人くらいで列を成していた。やってきたのは西鉄の貸切バス。白地に小豆色の線が入った、北部九州勢お馴染みのアレである(画像はWikipediaより)。

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東京九州フェリーの発着は新門司港フェリーターミナル。JR鹿児島本線の起点で有名な「門司港」ではない。小倉駅および門司駅からも送迎をしてくれるのでかなり優しいシステムだが、門司港まで行くとアウト。不慣れな人間だと間違えてしまいそう。
就航したばかりなだけあってターミナルビルは随分と新しい。1階で受付、2階で待機、3階で乗船する構造になっており、横須賀もほぼ同じであった。

23時10分に「はまゆう」に乗船して荷物の整理を済ませた私は、船内の探検をすることにした。

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もはや動くホテルである。

...すごい。テンションが上がってきた。
ここは4階のロビーで、我々が生活する空間は4, 5, 6階部分である。5階にはレストランとフォワードサロン(前方の展望室)、6階はデッキとスクリーンルームがある。私が宿泊したのは4階のカプセルのようなベッドである。

出航の様子は6階のデッキで見届けることにしたが私と同じ考えの人は5人くらいしかおらず少し寂しかった。船上から地上の友人に手を振りつつ「海賊王になるからなー!!」と絶叫している人や、船上で乾杯をするおじさんたち、TikTokを撮り始める大学生などがいた。そんな中で上を見ると見事な月が出ていた。

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出発直前。今日は満月。

23時50分ごろ離岸した船は、四国の南側を通って関東へ向かう。この関係で、陸地から離れた場所も航行する。つまりインターネットが全く繋がらないという状況に陥ってしまう。出航すると忽ちスマホに表示されたアンテナは減り始め、1時ごろには1本になってしまった。窓がついているロビーでこの状況なので、窓のない自室では当然圏外である。我らがdocomo回線でも例外ではなかった。ネットサーフィンをするわけにもいかないので、ここで寝ることにした。

2日目夕方まで: 船上生活

私が目を覚ましたのは5時であった。船の揺れが大きくなったというのもあってか、豚みたいな大きな怪物に食べられるというひどい悪夢を見ていた。夢を見るのも久々なのによりによって悪夢かよ...という1日の出だしである。インターネットは辛うじて繋がっている。船上においても阿部寛のホームページは爆速であった。
8時になると5階のレストランが営業を始めたので朝食に向かう。怪物と戦うためにも朝食は摂らねばならない。モーニングプレート(¥600)を注文。

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モーニングプレート(¥600)

朝食を終えてロビーに戻ると再びインターネットが繋がらなくなった。私がここで取り出したのは、事前に購入しておいた『彼岸花が咲く島』(李琴峰)。フォワードサロンで前方の景色と芥川賞受賞作をいっぺんに楽しんでいた。

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前方右側に小さく見えているのは、横須賀から新門司に向かう便「それいゆ」である。

10時からプラネタリウムの上映(45分間)があるということなので、スクリーンルームへ。普通のプラネタリウムとは違って星座などの解説音声は一切なし。スクリーンにはひたすら夜空や流星、オーロラが映し出されるだけであった。いつの間にか眠りについてしまっていた。

昼食はどうしようかと少し迷ったが、レストランのデッキでバーベキューをすることにした(要予約&人数制限あり、¥900)。風を受けながらひたすら肉と野菜を焼いた。一人バーバキューは初めてだったが、これ以上ない体験であった。

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何もかもが素晴らしかったが、夕方までインターネットが全く繋がらなかった。阿部寛のホームページも当然ダメ。午前中に途中まで読んでいた本も2時ごろには読み切ってしまったので勉強をしていた。勉強にも飽きると、パソコンのファイルの整理をしていた。

そうこうするうちに夕方になったので、船内の風呂に入ることにした。魅力は露天風呂。もちろん撮影は禁止なので、公式ホームページから画像を拝借した。

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露天風呂の様子。海しか見えない。むしろそれが良い。

最高。この時間は誰もおらず一人で堂々と利用できた。強いて言うならば船の揺れでお湯が半分くらいに減っていたことくらい。全裸で大海原を前に立っているときの爽快感および万能感はもう忘れられない。

2日目夜: 月

夕食は18時から。昼過ぎに船上で仲良くなった人を誘い合わせて一緒にレストランに向かった。私が食べたのはハンバーグ定食(¥1200)。非常にボリューミーで美味しかった。隣の刺身定食も美味しそうだった。

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下船までまだ2時間ほどあるので、前方のカーテンが締め切られてお役御免となり誰もいなくなっていたフォワードサロンにて2人で談笑していた(相手や話の内容についてはまた別の機会に)。カーテンの中に入り込んで外を見ると、東京湾の都市と満月が輝いていた。しかし船の揺れが大きくて上手く写真を撮ることができなかった。それでも私がこれまでに見た月の中で最高のものの1つになったことは間違いない。この手ブレがひどい写真しか残らなかったが十分である。

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さて、下船まで談笑していると相手が地元勢だということもあり、下船後に港から駅まで道案内をしてもらうことになった。重い荷物を持って迷わずに歩くのは非常に困難だったのですごく有難かった。

2時間ほど電車に揺られたのち自宅最寄駅で降りて上を見ると、中秋の名月が薄い雲の向こう側に佇んでいた。船上で見たものと同じくらい愛おしかった。

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月は時代や土地によらず普遍的に美しく人々から愛されている。
ここまでの存在は歴史上他に存在しただろうか。


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