CHROの原理原則

■書籍の紹介
CHROの原理原則ー人事は水を運ぶー
著者:堀尾 司/山崎 賢司

■はじめに

採用、労務管理、給与設計、評価基準等々、人事が扱うテーマはどの組織にも共通したものがあります。一方、テーマは同じでも組織の成長フェーズやその規模によって、表出する課題やフィットする施策は異なってきます。

本書の見出しにもなっている「"水を運ぶ"人事」という言葉。
これは、人事の動き方をたとえた言葉で、人事施策は、つくって終わりではなく運用がその成否を左右することを指しているそうです。人事担当自らが現場に足繁く通い、時にはしつこくコミュニケーションをとりながら理解・納得・共感・行動を醸成していくような動きが、「運用」には求められます。

人事戦略は、経営戦略と両軸で進めてはじめて価値があるものです。施策一つひとつは経営戦略と何らかの形で連鎖し、経営のメッセージ性を持っています。そこに込める俯瞰視点と現場感度を養うために本書を選定しました。

■組織をデザイン

1)CHROに必要な視座と視野

CHROの視座とはー経営の視座と同等です。
「ヒト・モノ・カネ・情報」と言われる経営資源ですが、この中で最も難しく、最も面白い「人」、そして組織の領域を司るのがCHROです。

最近では「ヒト・モノ・カネ・情報」の他に技術や知財、あるいは時間なども経営資源として挙げられることがあります。しかし、そのいずれとも比べても「人」が他の経営資源と決定的に異なるのは、「成長する」「化ける」可能性を秘めていることです。

CHROは、人の活躍を引き出し、かつ再現性をつくっていく役割と責任を負っていると言い換えることもできます。「成長する」「化ける」をいかに実現していくか。その働きかけ次第で、人・組織のポテンシャルは無限に広がるのです。

しかし悩ましいのは、人といる資源の「不確実性」です。
現在ならびに将来にかけて、何を推進していくべきかという判断は、組織ごとに、また置かれたフェーズごとに異なってきます。注意したいのは、人事だけを主語にして施策を考えると、判断を見誤る可能性があるということです。経営レベルに視座を上げ、事業戦略や事業の推進とセットで考えなければなりません

経営の視座から物事を考えるためには、会社の外部環境にアンテナを立てないといけないし、自社についても中長期的で考えなければなりません。自分の中の"ものさし"を持ち換えて、高い視座、長い時間軸、広い視野でどれだけ俯瞰できるか。俯瞰してはじめて、「今がどのような環境にあるのか」「他社に比較して自社がどういう状況にあるのか、どのようにポジショニングされるのか」が、見えてきます。

一方で人事は、自社の組織のリアルな状態を常に知っていないといけません。「こうだと思う」ではなく、「こういうことが起こっている」という事実レベルで語ることができるか。かつ、本来はどのような状態にあるべきなのかについても、経営層と共通認識を持っておくことが必要です。

日常現場での具体的な事象や言動について、あるいはそれを起こす背景や組織風土について、自身の肌感覚で知っておくことが重要です。

ある施策を実施、展開したとしたら、具体的に社員がどのような反応をするのか、表情をするのか、その顔がありありと思い浮かぶか。その人たちはどのような想いを持って、どのようなマネジメントをしているのか。悩みはなにか。この「手触り感」を知っておくのです。

まとめると、CHROの持つべき視点は、「外部×内部」×「俯瞰×現状」のマトリクスで表現できます。

外部×俯瞰の「社会環境認識の視点」、
外部×現状の「時差を位置づける視点」、
内部×俯瞰の「ありたい姿を描く視点」、
内部×現状の「手触り感を持つ視点」の四象限
です。

優秀なCHROはこの四象限の視点に必要な視座、視野を「行き来」しています。高い視座で経営を語ることも、視座を下ろして現場を捉えることもできる。あるいは広い視野で長期的かつ全体最適を考えることも、短期的に業績・社員の目線に立った視野で寄り添い、その心情や意図を考えることもできる。その視点の「行き来」ができることが重要です。

2)成長の階段を踏み外さない組織づくり

大まかに、組織の成長のステージは「シード」「アーリー」「ミドル」「レイター」と区分することができます。

①シードステージ
"全員野球"。創業者の熱量とフラットな組織で活力を出す
価値を特定し、訴求することがメインとなる段階です。将来性のある事業ドメインを選択するステージで、起業の準備段階も含んでいます。事業を展開する際のビジネスモデルや具体的な財・サービスの検討、また市場調査などの仮設検証を繰り返します。初期の事業計画書を作成するのもこの時期です。創業者の熱量によって大きく事業性が変わることもありますが、多くの場合は組織も小さく、全員がすべてを担当する段階にあります。

②アーリーステージ
”戦略性”。採用スピードが増す中で、ビジネスの伸びが人の成長を牽引する
事業全体の戦略性が具体的に求められ、組織面においても社員の採用を戦略的かつスピーディーに進めなければならない段階です。しっかりとしたマネタイズモデルの構築とその仕組み化、組織のデザインがポイントになります。

③ミドルステージ
"拡大"。組織化を進め、ミドル層の充実を進める
事業が少しずつ拡大再生産の軌道に乗ってくる段階で、金融機関や社会からの信用力も増してきます。業種やモデルによっては爆発的な成長がみられる時期でもあります。組織面においては、ミドルマネジメントの充実が求められます。事象を言語化し、業務を整理し、オペレーション戦略とともにPDCAをしっかり回す必要が出てきます。

④レイターステージ
"変化対応"。仕組み化を進めると同時に、多様性への対応も求められる
ビジネスモデルのレベルから業務プロセスレベルまで、改善と持続化が求められる段階です。システマチックに変化を起こすことで進化していく必要があるとも言えます。ベンチャー企業であれば、上場を検討するステージとなることも多いでしょう。単発あるいは単一の商品・サービスで進んできた会社が、新領域・新事業を求める動きを始めるものもこの頃です。組織面においては、多様化すや仕組み化がキーワードになり、人事制度や人材育成の体系化が求められるようになってきます。部署や機能のサイコロ化、縦割り化を防ぎ、悪い意味での大企業病に陥らないように、という声が挙がることもあります。

リスティングプラスで考えると、クドケンから独立した社長と社員2名で1期目を走り、1年で最初の4倍以上の売り上げの伸びを出しています。
2年目から数名が参画し徐々に会社も大きくなっていきますが、創業時のエネルギーや、ありたい姿はおそらく共有されています。昔話を聞いても、一人ひとりが、様々な業務領域を兼任し、創業期の苦労を乗り越えてきていると思います。必然的に同じ方向に向かって自律的に動くような組織だったのではと想像ています。
そこから、人の入れ替わりや識学の導入などがあり、フランクだった組織が組織として一枚岩のピラミッド型に変化していっています。
創業期は社員も少人数で、社長が直接様々な意思決定を行ってきましたが、社員数も増え、部長やマネージャーを任命し、権限委譲したり、組織風土や価値観の醸成のために、企業理念を浸透させるような動きをしたりと、本書に記述している、組織成長にリスティングプラスはうまく適応していきていると感じました。

階層を多く設ける組織をデザインするのか、フラットな組織をデザインするのか。その設計は、業務の特性や社員の特性などを加味したうえでの経営方針によっていきます。ただ、共通するのは、業務フローや意思決定のフローを明確にする必要性だそうです。

事業・ビジネス・業務・マネジメントを、最も価値高く、最もスピード感を持って、滞りなく進められるようにするのが組織デザインだという「そもそも」を忘れてはいけません。

成長期の企業は年単位、月単位、あるいは週単位で人員構成が変わり、組織デザインの更新が必要になることも珍しくありません。効率的な仕組み化を進めつつ、多様性への対応を取り込むのは必然的な条件になります。

■風土も意図的に

1)ビジョンの"普段づかい"

企業の成長を支える幹は、究極的には「経営理念」や「ありたい姿・状態」、あるいは「社会に対して果たす使命」といったビジョンやミッションにあるといえます。ビジョンやミッションに基づき、「何をすべきか」を決め、方向性や注力する領域について具体的な戦略に表し、「どのようにやるか」という戦術を定めていくことになります。

しかし、現実には個々のチームの成果を積み上げても「ありたい姿」へ進んでいるとは言えなかったり、組織の中でいつの間にか方向性がずれてしまったり、といったことがでてきます。

達成時期が見える短期の範囲で、数字で具体的に示されるような目標や戦略は、誰しもイメージがつきやすいものです。一方、「目的」や「ありたい姿」と言われれると、正直イメージがつかない人も多いと思います。
そもそも、「重要だといわれるビジョンは本当に重要なのか?」「あってもなくても、目の前の活動・目の前の仕事をすることに何ら変わるはないのではないか?」「結果も大して変わらないのでは?」という疑問が生じても不思議ではありません。

確かに、日常的な業務が固定的に決まっているならば、それほどビジョンの有無によって活動や行動は変わらないかもしれません。

しかしそうであっても、本来はすべての業務がビジョンと連鎖しています。「ありたい姿」を本気で実現していくには、ビジョンが日常行動まで影響力を持っているかどうかが、とてつもなく大きく左右してくるそうです。

あるサッカーの監督は、世界大会でベスト4に入るというビジョンを掲げた際に、日常ことあるごとに選手に対してビジョンを問い続けたと言われています。

たとえは、「その練習メニューでベスト4になれるのか?」「その食事でベスト4にいけるのか?」とった具合です。最初はうっとうしく思う選手もいたかもしれませんが、やがて選手同士でも「お前、その〇〇〇でベスト4にいけるのか?」という問いかけが冗談半分で流行り言葉のように使われるようになったそうです。

冗談半分ということは、本気半分とも言えます。選手それぞれが、何気ない行動をする際にも「果たしてこれでベスト4にいけるのだろうか」と自問自答する癖がついたことが重要です。

これが「ビジョンの普段づかい」です。

目の前の仕事に没頭すると、手段が目的化してしまうことがあります。
時には、手段さえ達成すればよいという力学が働いてしまうことも。そうすると、仕事やそれに繋がる思考や行動も、部分的あるいは短期的なものとなりかねません。

イメージがありありと思い描かれるビジョンが、日常行動に溶け込み、普段づかいされていれば、自身の仕事を通じてそのビジョンに貢献したいという気持ちが沸き起こりやすくなります。そしてそのエネルギーが、ビジョンの実現を推進することになります。

2)組織風土をコア・コンピタンスに

組織には次の5つの要素が条件として挙げられます。

1.構成員がいる
2.何らかの共通の目的と共通の意思が存在する
3.一定の規範、倫理と美意識の共通性
4.命令と役割が存在する
5.共通の情報環境

組織はこの5つの要素を具備したうえで、上意下達式のスピードを重視した組織も、フラットな関係性を志向した組織もあります。
一般的には「機能別組織」「ホロクラシー型組織」「ティール組織」など多様な形態が論じられてきています。

ただ、これらはあくまで形態を便宜的に分けた言い方です。ここで考えていくのは、ビジョン実現のため、戦略を実践・展開するための最適な組織づくりをどう進めるかという点です。

本書では組織の陥りやすい課題も指摘しています。

1.「組織をつくる目的」と「つくられた組織が持つ目的」が必ずしも一致しない
2.全体の手段が部分の目的になる
3.組織の目的と組織構成員の目的が異なってくる

こうした状態は、程度の差があれども、大局的にも部分的にも頻繁に起こりえます。
全体最適の視点におけるアクション(行動)と、部分最適の視点におけるアクションでは、その内容が真逆になってしまったり、優先順位が異なってしまっているというのはあります。

これらの例が続くよくであれば、戦略を実現する組織になりきれていないというリスクのみならず、柔軟に環境変化に対応できなくなるリスクも抱えています。

組織が柔軟ではなくなる、硬直化する・・・のはとても危険がことだそうです。組織が陥りやすい課題が克服されないままだと、組織の条件に合致しなくなります。つまり組織とは言えないということになってしまうのです。

3)組織の「正しい」とされる思考や行動

企業文化・組織風土とはいったい何なのでしょうか?

アメリカの心理学者エドガー・H・シャインは、文化について「ある特定のグループが外部への適応や内部統合の問題に対処する際に学習したもので、それはグループ自身によって、創られ、発見され、または、発展させられた基本的仮定のパターン」という定義をしています。

本書では、「一つの蓄積された結果が施行の習慣を形成し、感情の習慣を形成し、そしてまた同じ行動をもたらし習慣化されること」と解釈されています。

組織における「良い悪い」の考え方自体が、認識を重ねる中でつくられていきます。つまり、「正しい」とされる認識や行動を「上書き」していくことによってしか、風土を変えていくことはできないのです。

意図的に風土を変えたいと考えた場合、即効薬はありません。
組織の中には半ば無意識に存在している"癖"を変えることは、そう簡単ではないからです。新しい感情・思考・行動の習慣を、少しずつ既存の風土に上書きをしていく必要があります。

人事が考えるべきことは、何かメッセージを発信する前に、それがどのような思考や行動を強化するか。組織において「正しい」とされる"癖"をどのように上書きするかという点です。

社長の発信や、新しい人事施策などは、それぞれメッセージ性を持ち、風土にも影響します。社員がどのような感情で受け止めるのおか、どのような思考を強化することになるのか、職場リーダーのどのような行動を喚起するのか。あらかじめ考えを巡らせてから発信することが大事です。

■まとめ

先日、社長からもフィードバックがありましが、組織や制度を考えるうえでは様々なシミュレーションすることが必要だと改めて感じました。
1つの案をとっても、これを実際に導入したらどうなるのか、そこででるリスクは別の案でカバーできないのか、などもっと仮説を立てる必要があります。
また、自分の頭の中で考えるだけではなく、具体的に社員がどのような反応をするのか、表情をするのか、その顔がありありと思い浮かぶか。その人たちはどのような想いを持って、どのようなマネジメントをしているのか。悩みはなにか、現場に聞いていきたいと思います。

もう一つ、本書であった組織風土について。今あるリスティングプラスの風土は社長や創業期の方たちがこれまで作ってきてくれたものだと思います。
しかし、ここからさらに組織を大きくし強くしていくには、G3を中心として下からの突き上げが必要になってきます。

いい意味でも悪い意味でも、識学もあり上の言うことは絶対。的な風土があり、リスクを追ってまで上を追い抜こうとしていない、それこそ風土になっていたかと思います。

人事として、恵まれているポジションにいて、これから組織形態も変わっていくときなので、既存の風土を上書きしていき、自分たちの色を入れれるようにしたいです。

そのときに、「この思考や行動でG4や社長になれるのか」、もっとG3の中でも声をかけあっていきたいと思います。

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