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「聴かれる体験」と「セルフジョブ定義」

「聴く」から始まる人的資本開示
〜個のスキルを可視化する3つのステップ〜

というタイトルで、2023年3月9日にエール株式会社株式会社SP総研との共催でセミナーが実施された。

 セミナーは大反響・大盛況で、もともとYeLLセミナーはその内容や運営(ロジ)も参加者のレベルも「異次元」という認識はあったが、特に参加者の皆様からセミナー中にチャットで頂いたり事後のアンケートの中で頂いた質問やコメントの内容のクオリティに驚いた。(後ほど、主だったものをご紹介する。)
 今回のセミナーの内容はというと、私が担当した冒頭の講演パートは「人的資本開示」のトレンドを少しご紹介し、一貫して「スキル」が重要であることを説明、そしてその「スキル」を可視化するための最適な手法についても少し触れた。このように満遍なく浅く広く説明する程度にとどまるものではあったが、重要なのはその次のディスカッションパートで、 篠田真貴子さん、櫻井 将さんのお二人から色々な角度から「引き出し」て頂き、また、非常に多くの示唆・気づきをいただくことができた。

 このお二人のお陰でセミナー全体の内容もこれまでのYeLLセミナーの水準を維持できた(私が下げてしまうことなく)のではないかと思う。

 あまりにもたくさんの、貴重な示唆を頂けたことから、せっかくなのでnoteの記事としてまとめておくことを思い立った。ちなみに、普段はセミナー後にこのようなことはしていない。
 どのようにまとめようかと考えながら、恒例となっている伊東温泉ワーケーションに向かう列車の中でいつも「旅のお供」にしているCELMの機関誌 BELIEFの最新号(vol.34)を読み始めると、なんとそこには櫻井 将さんの記事があった。

 なんてタイムリーなんだ!と思って読み進めると、2023年3月9日のセミナーに関しての自分にとっての振り返りにもってこいの内容であった。

1on1ミーティングが大切なことは理解した。やり方も研修で教えてもらった。ただ、自分がしっかりと話を聴いてもらった体験がない人が、人の話を進んで聴きたいと思うでしょうか。それでも日本の管理職の方はきちんと取り組む方が多いです。しかし、実際にやってみると次に出てくる気持ちは「これで合っているのかな?」となるわけです。頭ではわかるけれど、自分の体感覚がついてこないということが起きています。管理職の聴く力を高めるのであれば、しっかりとよく「聴かれた」という体験が最初にこないと、本当に能動的な1on1は行われません。

CELM機関誌 BELIEF最新号(vol.34)
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「よく聴かれた」体験をすることから、
個人の自律と企業との対等な関係が生まれる

 「ちゃんと聴いてもらえた」という体験を出来るだけ多くの従業員にしてもらうためにも、現場主導型のジョブ定義ワークショップ「セルフジョブ定義」は有効だと思っている。

 このようなワークショップを実施すると、多くの場合、「経営職」「管理職」といったようなより上位層の方々ほど満足度が高いように感じる。とある企業で実施した際にも、課長職や部長職の人たちよりも役員クラスの方々から次のような感想が多く寄せられた。

  • 「こんな風に担当職務の内容まで丁寧に聴いてもらえたのは初めてだ。」

  • 「部下を前に自分の仕事の話なんかすると、ほとんどの場合、『愚痴』もしくは『武勇伝』を語っていると思われる(あるいは、そう思われそう)ためそんな話はむしろしないようにしてきた。」

  • 「愚痴ったつもりはないが、なんだか聴いてもらえただけでスッキリした。」

  • 「これくらいのポジションになると自分の『強み』みたいなものを自ら挙げるのは躊躇われるところ、第三者に多くのスキルを『認定』され、認めてもらえてような気分になった。」

 実際に、管理職の方々が上記のような「聴いてもらえることの価値」をわかっていれば、そうでない場合に比べて、今度は自分たちが部下の話を聴く立場になった場合の姿勢に違いが出るのは明らかであろう。自分がしてもらって良かったと感じたことは、今度は他者にもしてあげたくなる、というのが人の性(さが)だろう。

できるだけ純粋に聴く・聴かれる状態は、利害関係が薄い方がつくりやすいです。そこで例えば、エールでは直接の利害関係のない社外の副業人材が聴き手となる環境をつくっています。利害がないという関係性にするだけで、聴き手が本来もっている「聴く力」が最大限に発揮されやすいのです。

CELM機関誌 BELIEF最新号(vol.34)
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「よく聴かれた」体験をすることから、
個人の自律と企業との対等な関係が生まれる

 「セルフジョブ定義」は、SP総研のメンバーがファシリテータ役を務め、クライアント企業側でワークショップ参加の対象者に選定された者に対してヒアリングを行う形で進められる。つまり、クライアント(ワークショップ参加メンバー)からすれば「利害関係のない第三者」が聴き役となるわけである。この点、「エールでは直接の利害関係のない社外の副業人材が聴き手となる」というところと共通している。
 ワークショップの冒頭では「いったいこの人たちに何を話せば良いのだろう?」という戸惑いが見られるケースもあるものの、「さぁ、好きなように、自由な発想でまずは自分自身にキャッチーかつカジュアルなジョブタイトルを付けてみましょう!」というワークから入るためすぐに皆打ち解け、「ああ、ここは何を話しても良い場なのだ。何を言ってもポジティブに受け止めてもらえる。」という安心感も得ていただきやすいようだ。話す相手が、社外の、利害関係のない第三者だからなおさら気軽に話せる。
 ここで、「聴き手が本来もっている『聴く力』が最大限に発揮されやすい」ということに似て、「話し手が本来もっている『伝える力』が最大限に発揮されやすい」ともいえるな、と感じている。

最近は、50代以降の人事制度が変わっている企業も少なくありません。自分の処遇が変わることへのモヤモヤした感情、自分も新しく何かを始めなければいけないのかといった不安。20代30代であれば、上司や社内の先輩が聴き手となりえますが、40代50代の方のお話をじっくり聴ける方を社内で確保するのは非常に難しいように思います。この世代には、特に社外に聴き手がいる環境の必要性を感じています。

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「よく聴かれた」体験をすることから、
個人の自律と企業との対等な関係が生まれる

 年代の話をするならば、まず「若手」を呼ばれるような人たちは「まだ経験が浅いからスキルなど大したものは持っていない」と自信がなく、「キャリア自律などまだ早い」と考えがちだ。しかしながら、前述の「セルフジョブ定義」の手法によってスキルの可視化を進めてみると、20個から40個あまりのスキルが(しかも、世界通用性のある名称で)あっという間にリストアップされる。そのスキルの一覧を眺め、「ああ、こんなに経験が浅くてもこれだけのスキルを持っていると、胸を張って良いのか」と自信を持つ。
 他方で、「ミドルシニア」と呼ばれる層の人たちは、「経験(年数)は豊富であるが、スキルで表現したことがないし、仮に持っていたとしてもオワコンスキルだろう」と半ば自虐的に、諦めの境地にいるケースが多い。しかしながら、前述の「セルフジョブ定義」の手法によってスキルの可視化を進めてみると、20個から40個あまりのスキルが(しかも、世界通用性のある名称で)あっという間にリストアップされる。そのスキルの一覧を眺め、「ああ、オワコンだと思い込んでいたがこんなに最先端のスキルを持っていると、胸を張って良いのか」と自信を持つ。
 このように、どのような年代であっても、経験値の度合いがどうであっても、「聴く力」によって潜在的なものが引き出されて言語化され、「モヤモヤ」はかなり解消されて不安も安心へと変わる。確かに、初めのうちは「社外に聴き手がいる環境」の方が話しやすいかもしれないが、「よく聴かれた」という体験をした者は少しずつそれを社内でも実践し始める。

聴かれることで何が変わるのでしょうか。
それは、特に今の時代に必要な、自分自身への理解が高まることだと思っています。「セルフアウェアネス」といったり、松下幸之助さんは「自己観照」と表現されています。自分はどんな人間かということへの解像度があがると、自分がこの組織に、この社会にどのように関わっていきたいのかということが見えてきます。自分を知ることで、結果として組織へのエンゲージメントは高まります。

CELM機関誌 BELIEF最新号(vol.34)
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「よく聴かれた」体験をすることから、
個人の自律と企業との対等な関係が生まれる

 ここで、「自分自身への理解」というのは、スキルベースで自分を表現して「強み」(あるいは、「課題」)をよく知ることだ。もちろん、性格特性(パーソナリティ)的な側面からも自らを知ることは必要であるが、日本企業に身を置く人たちに圧倒的に足りないのは、スキルベースでの自己理解なのだ。スキルベースで「現在地」を知ることができると、今度はそこを出発点として次の目標を設定することができる。ただし、目標地点までの道のりも、やはりスキルベースで示されなければならない。そのためには「目標地点」すなわちこれは具体的な「ポジション」や「ジョブ」のことであるが、これらの「要件定義」もスキルベースであらかじめなされている必要がある。
 あたかもキャリアに関してのGPS(キャリアGPS)を持つことができたような状態となり、ありとあらゆる方角へ向かうための道筋が見えたり、あるいは、一つの目標地点へ到達するためにも道は複数あることを知ることができる。

提供:SP総研 (キャリアGPSのイメージ)

 色々と道筋が見えてくることでイメージも膨らみ、「この組織にどのように関わっていきたいのか」ということもリアリティをもって見えてくるようになる。「自分はどのような貢献が出来そうか」と具体的に考えることにもつながるため、結果として組織へのエンゲージメントも高まる

「聴かれた」体験をした人が増え、お互いに聴き合うことができる組織になるにつれ、人は自分を何かの型に合わせることなく、組織の中にいられるようになっていくでしょう。あなたがあなたでいるということが、この組織にとって価値があり、同時にこの組織があるからこそ、私が私でいられる。これが「組織があるからこそ、より自分らしくいられる」状態です。

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「よく聴かれた」体験をすることから、
個人の自律と企業との対等な関係が生まれる

 人的資本経営時代において「あるべきジョブ型」というのは、組織主導で定義された「ジョブの型」に従業員が従う形でそれに合わせていくのではなく、自分主導で定義した「ジョブの型」をマネジメントに対して提示して、「今はこれをやっている。できれば今後もこれでいきたい。」でも良いし「今はこれをやっているが、蓄積したスキルを活かして次はこれをやりたい。」として「発展型」を提案して少しずつ受け入れてもらえるような、いわば「メンバー主導のジョブ型」であることが望ましい。


 最後に、2023年3月9日に実施されたエール株式会社と株式会社SP総研との共催セミナーにおいて、受講者からは素晴らしいコメントを数多くいただいた。嬉しいことに、登壇者側の私自身が初めて気付かされることが多かった。それらをいくつか紹介する。

  • 「セルフジョブ定義」の考え方・仕掛けは、だれでも自然に自分自身のことを言語化できる流れになっていて興味深い。

  • 個人の主観を大切にするスキルの見える化はとても納得できる。

  • スキルベースに自分を知り、それが一番発揮できる場所に身を置く、そのことが組織にとってもサスティナブルなよい会社であることにつながるにとても納得した。

  • 人が競争優位の源泉だとしたら、ジョブディスクリプションがその根幹となると感じた。

  • 人がいさえすればよいのではない。知識・スキル・能力を可視化する=「自己理解」からスタートするということ。壮大な事業戦略の前に、個々人の特性や仕事への意味づけが大切であり、それを定期的に考える場を作ることが重要。

  • 1on1も回数を重ねるとついつい仕事の話になってしまう。意味・意義ある仕事やエンゲージメント向上につなげるための1on1に、自分のスキルの見える化シートの共有は、有効になるのでは。

  • キャリアラダーの「上」に行くだけでなく、「横」に広がるのは、とても良い可視化だと思います。

  • 「スキル」という言葉を安易に、ゲームにあるような「スキル」、ISOの「力量」と”冷たい”とらえ方をしていましたが、パーソナルで繊細なものであること、これらの相互コミュニケが個人と組織の理解を深める重要な役割であることに深く関心した。

  • ジョブディスクリプションをつくるということを通すと、より人財がもつスキルや知識がより明確化されていく。

  • ジョブディスクリプションを作成することが自己理解につながり、他者から自分を理解してもらうことにも役に立つ。

  • セルフジョブ定義シートを作るというプロセス、willとcanが整理することで自己理解が深まる、自己理解が深まれば他社理解も進むという、、広がりを感じられた。

  • セルフジョブディスクリプションが個人、組織の現在地確認→再発見になる。

  • 個人個人がジョブを定義することで自律的な個人が育ち、個人のサステナビリティが高まり、ひいてはサステナブルな企業活動につながるというストーリーは理解できた。

  • セルフジョブ定義を通じたスキルの見える化、個々の想いの見える化とそれをベースにした人事や面談は、職場の人間関係の円滑化、個々の納得のいくキャリアプランに対してもいい影響があるのでは。

  • 業務skillや能力を自分で書き出し改めて可視化することは自分発見だけでなく、働く意味がわかるのでエンゲージメントが高まると感じた。

  • ジョブディスクリプションは会社側からの要求ベースだけでなく、自身の認識するWillを伴った内容にすることで自分の業務の振り返りや今後必要なスキルについて自らも考えるようになる。

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