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エミリーの不幸とフェミニズムの難儀(前編)

何年前だったでしょう。夜中にふと見かけた『エンジェルウォーズ』というひどい映画。主役と思しき、セーラー服にミニスカートの金髪女子が刀を振り回して京都っぽいお寺でデカい鎧武者みたいなのと戦っている……やだ、なにこれ。

観るのを途中でやめました。

でも「原題もまさかこれではあるまいな」と気になりまして、後日調べてみたんです。すると、原題は"Sucker Punch"(サッカー・パンチ)だそうで。そっか、そりゃまあ邦題は変えるよね……でも……だからって……ねえ?

なんて思いながら映画の情報を見ていると……。

主演の金髪女子、エミリー・ブラウニングかっ。

『レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語』

みなさんは「一番好きな映画は?」と聞かれてサッと答えを出せますか? ぼくは迷わず『レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語』の名を挙げます。

レモニー・スニケットことダニエル・ハンドラー著の児童小説『世にも不幸なできごと』を映像化した本作は、2004年製作(日本では2005年上映)の劇場映画。長く続いたハリー・ポッター人気の影響もあって注目された児童文学作品のうち一作であり、原作は世界ではヒットしたものの……という微妙な立ち位置の作品です。だが傑作。大好き。ハリー・ポッターほどお子様向けではなく、大人も楽しめる優秀なコメディ作品なので超オススメです。

さて。この作品のクレジット上の主演は敵役のオラフ伯爵を演じるジム・キャリーですが、鑑賞者の視点となる事実上の主演が、相次ぐ"不幸せ"に見舞われる3姉弟の長女ヴァイオレットを演じるエミリー・ブラウニングなのです。

この作品に出演した当時のエミリーは15歳。ただ綺麗、可愛い、というのとは別に絶妙な"薄幸感"を醸し出す顔だちもあり、まさに適役でした。

『エンジェルウォーズ』(2011年)

『エンジェルウォーズ』のことはしばらく忘れていたのですが、最近になってネット配信のラインアップに含まれていることに気付いたので、改めて初めから(終わりまで)観てみました。

エミリー・ブラウニング演じる"ベイビー・ドール"は継父の計略によって精神病院へ送られ、ロボトミー手術を受けることに。しかも、ただ監禁されるというだけでなく、見世物としてある施設に収容されます。ベイビー・ドールはそこで出会った他の女性たちとともに施設の脱出を試み、そのために必要な"5つのアイテム"を得るため奮闘する……というのが物語の概要です。

もう、何度観るのやめようと思ったことか。

「5つのアイテムを集める」のも、そのためにダンスを見せることでトリップする空想世界で武器をもって敵と戦うのも、ゲームっぽくて耐えられない(ゲームでやればいい)。これってB級映画っていうのかな、それともC級かな。こんな映画に出ているなんて、エミリーさんは俳優としてはダメだったのかな。あるいは"不幸"が『板』についたのか。

アクション主体の内容はストーリー的に深く読み込む必要もないので、そんな余計なことを考えながらがんばって席を離れずにいる自分。これはロボトミー手術を受けるため診察台に座らされるベイビー・ドールの気持ちを体感させられているんだ……なんて妙な監督擁護をしながら間を持たせ、5回も繰り返される似たり寄ったりのバトルシーンを乗り切るころには……

様子が変わっていたのです。

これから観る人いるの? という疑問はあるものの一応ネタバレを回避しますと、作品の終盤は中身がありました。結果的にはそんなに悪い作品ではなく、まあまあ良い作品と言えるかもしれません。5つのアイテムを揃えて施設を脱出し、「みんなハッピー☆」みたいに終わったらどうしようかと思いましたよ!

とはいえ中盤を占めるゲーム的アクションシーンは倍速視聴でいいんじゃないかというのが正直な感想です。ゲームでやればいい(二度目)。もちろん劇場映画として作られたのですから、この「途中で逃げられない」「オチ偏重」の作りで正解なんですが、現代にネット配信でもって自宅で観るのはなかなかつらいものがあります。でも、こういう作品は今後なくなっていくと思うと、それはそれで少し寂しい気持ちもあります。

この作品の難しいところは、あくまで女性たちを応援する内容であること。そして、それを男性が作っている(監督・脚本は『300 〈スリーハンドレッド〉』等で知られるザック・スナイダー)ことです。

本作が、女性が陥れられる不幸な境遇に対する全力での抵抗を描いているのは確かで、置かれた境遇の類似性で言えば、先日『ディストピアに慣れすぎた』で紹介した『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』はかなり近いものがあります。

ただ「ミニスカートで大立ち回りを演じる」のは、作品のテーマとはそぐわないとも言えます。日米での女子高生ルックの捉え方の違いもあるとは思いますが。

ただ、この作品自体が女の子を見世物にする……と見せかけて、カウンターとして「女性たちは黙っていない!」「女性たちは戦うぞ!」と言いたいのであれば、"Sucker Punch"(不意打ち)というタイトルには納得できるかもしれません。なおさら「邦題ダメじゃん」とは思いますけどね。

他の作品も観る!

そんなこんなで「エミリー・ブラウニングは不幸が板についてしまったのか」が気になってきたところ、ほかにもネット配信で彼女の出演作が観られることがわかったので、他の作品も観てみることにしました。

詳しくは次回、後編で紹介しますが、『スリーピング ビューティー/禁断の悦び』(2011年)と『ポンペイ』(2014年)です。

『禁断の悦び』は悪い予感しかしませんし、『ポンペイ』は、火山の噴火で滅びたあのポンペイです。幸せになるわけないんですが……さて、どうでしょう。

(つづく)


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