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「格差社会」は納得のうえで生まれる~メタバース経済とMMTを考える

仕事じゃないけど仕事のような力の入れ具合で書く記事(?)の4回目です。今回で区切りをつけようとしたのですが長くなりすぎたので、次回で第1部完結とするつもりです。

今回は、これまでも例としてきたMMORPG『FINAL FANTASY XI』(FF11)の経済の変遷について探っていきます。

いわば「古代」の経済

さて、以下は前々回にも掲載した、FF11の過去の経済をさらに初期と中期に分割したものです(少し修正しました)。

まずは、右の「初期」から見ていきます。

運営開始初期のFF11におおいて、貨幣の流通量を増加させる最大の要因は、街のひとなどNPCからの「頼まれごと」に応えた際に支払われる、お礼のかたちをとっていたと考えられます。

例えば、虎を倒すと手に入る"牙"を3本集めて渡すと、高いお小遣いをくれるおばあさんがいまして、みんな足しげくおばあさんのもとへ通ったのです。あのおばあさんは日銀総裁の化身だったのかもしれません。なのでここ(図の[4])の右向き矢印「報酬」は太くなっています。

ただ単純にお金がほしければ、プレイヤーに人気のあるアイテム(例えば強力な装備品の材料となる鉱石など)を取ってきて競売で売ればいいのですが、これはプレイヤー同士の間でお金が動くものの、通貨の流通量は増えません。むしろ、競売(図の[5])を通じて売買する際に手数料を取られることで貨幣の流通量は減少していきます。

FF11に限りませんが、黎明期のオンラインRPGは「オンラインならでは」を求めて、プレイヤー間の取引を活性化させることに重きを置くことがよくありました。例えば、ショップへのアイテム売却価格が(オフラインRPGに比べて)極端に低く抑えられていたり、ショップから買うアイテムの価格を過剰に高くされていたり。FF11もこの例に漏れず、プレイヤー間の取引に重きを置いてきました。

一方、貨幣の回収については、プレイヤー間の取引に対して現実のような「所得税」をかけることはできません。貨幣を回収する手段は、競売への出品手数料や、狩りに赴く際に乗るチョコボの搭乗料金(図の[2])によって実現されていました。また、ショップからアイテムを買う機会(図の[1])にも、貨幣は減少していきます(冒険の初期に必要な弱い武器防具や、魔法習得に必要なスクロールは安くされています)。

この時期のFF11の経済は、総じてシステムを介したお金の動きが乏しく、図でも(厳密な関係を示すわけではありませんが)矢印を細くしています。

「現実の経済」と比較

ここまでを現実の経済と比較して考えてみましょう。

前述のとおり、オンラインRPGには「あるプレイヤーの一定期間の収入をカウントしておいて、定期的に税を徴収する仕組み」がなく、「所得税をとらない」という特徴があります。そういうシステムを作るのは容易ですが、おそらく開発されることはないでしょう。

現実と違ってゲームのなかでは「まず税を集めてから(国が)なにかを実現する」必要がないので当然ですし、所得税をはじめとした「直接税」に分類される税金は、徴収される側の国民にとって極めて納得感の低いものとなっています。「働けというから働いているのに、なぜ稼ぎを取られるんだ? 働いたことへの罰か?」という声もしばしば聞かれます。これは、サラリーマンなど個人労働者の所得税も、会社などの法人所得税も同じです。個人VS企業で戦うのは"真の敵"の思う壺なので要注意です。

一方、競売手数料やチョコボの搭乗料金には納得感があります。サービスを受けている実感がありますからね。ショップから購入することになるアイテムも「モノ」が手に入るのだから同様に納得感があります。

ゲームはあくまで楽しむためのものですから、貨幣の回収というネガティブな要素に対しても、ゲーム開発者は「納得感」を大事にします。人間を相手にするのは同じなのですから、現実もゲームも本当はおなじなんですけどね。どうせお金を払うなら、納得感のあるところに払いたいところです。

でもこの「納得感」というヤツは、実はちょっと"曲者"なのです。

FF11の初期経済に起きた問題

一見バランスの取れたこのFF11の経済には、大きな問題がありました。

それは、貨幣の供給源が「NPCからの頼まれごと」に集中しすぎていたことです。プレイヤー間の取引は競売を通じて楽にできますが、取引ペースはそう早くないので「一定時間内にいくら稼げるか」で考えるとあまり効率がよくありません。

一方、システムが自動的に応じる「NPCからの頼まれごと」の報酬は、額は小さくとも短時間に連続で達成でき、高効率になるものがあったのです。そして、一部のプレイヤーが不正な手段(自動化ツール)を用いてその穴を突き、物価があがる"インフレ"の波が訪れます。

プレイヤーの成長とともに「格差拡大」経済へ

FF11の開発者はこの"インフレにつながる穴"を次々塞いでいきました。ここからは、左「中期」を見ていきます(赤文字は主な変化がある個所)。

報酬として得られる金額をとても小さくしたり(図の[4])、報酬を得られる機会を制限したり。ところが、そうすると不正ではない貨幣の産出も減ってしまいます。

以後、FF11の開発者は高難度のコンテンツなどで多くの報酬が支払われるようにしていきます(図の[6])。町の近隣を徘徊しているゴブリンを倒しても"5G"程度のお金しか得られない一方で、高レベルの上級プレイヤーが挑むボスバトル的なコンテンツでは数千Gを得られる、という具合です。

もちろん挑戦できる機会には違いがあり、コンテンツに1回挑戦する時間でゴブリンを数十匹倒すことはできます。とはいえ、一定時間内の成果を比較すれば、お金としての収入も、手に入るアイテム(の売却価格)もケタ違いです。

「がんばった人が報酬を得られる」と言えばなんとなく「納得感」があります。「ゲームなんだから、そうではなくては」と思う人も少なくないでしょう。ただ、経済を重視して考えたときにそれがベターかというと、そうではなさそうです。

上級プレイヤーもさらなる成長を求めてお金を使いますが、彼ら上級プレイヤーがほしがる"高級品"は同じ上級プレイヤーと取引をする必要がありました。すると、上級プレイヤー同士でお金とアイテムが循環してしまうのです。

一方、あとからプレイを始めた後続プレイヤーなどは、以前より報酬が絞られた状況に身を置いてプレイすることになります。手に入れられる戦利品も、お金持ちの上級プレイヤーには買ってもらえないか、買ってもらえるものは競争が激しいために安く買い叩かれてしまいます。こうして、プレイヤー間に経済的な格差が生まれていったのです。これは現実の社会で、若者が軽んじられる状況に似ています。

ただ、そうは言ってもプレイヤーは少しずつ成長していき、上級プレイヤーが増えていきます。そして、高レベルのコンテンツから算出されるお金もどんどん増えていきます(ただし、以前とは異なり"不正"ではありません)。

さらなる貨幣の回収手段が必要になったことは、言うまでもありません。新たな貨幣の回収手段が必要となったことは"失敗"と言えるのですが、しかし、その対策は功を奏しました。

現実の日本社会では、公共事業などを通じてまず建設会社など一部のお得意様(政治家に献金している)にお金を流し、そのために発行しすぎた貨幣は消費税率アップなどで広く"皆から回収"されていますが、さすがにFF11はそんな愚かなことはしなかったのです。

(つづく)


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