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ソマティックワーク入門 第13回 フォーカシング 池見陽さん(理論編01)

健康とウェルビーイングの一歩先を求めて−−。
今、こころとからだの健やかさの質を高める、
マインドフルネス瞑想やボディワークなどが人気を呼んでいます。
からだの感覚に注目し、
心身が心地よい状態へとフォーカスすることで、
深い気づきや静けさを得たり、
自己肯定力や自己決定力といった心身の豊かさを育んだりしていく。
これらは、
こころとからだのつながりを目指す
「ソマティックワーク」という新しいフレームワークです。
その手法は、タッチやダンス/ムーブメントなど多岐にわたり、
1人で行うワークから、ペアやグループで行うワークもあり、
自分に向くものはそれぞれ異なります。
この連載では、
これからの時代を生きる私たちにとって、知っておくべき「からだのリベラルアーツ(一般教養)」として、各ワークの賢人たちの半生とともに
「ソマティックワーク」が持つ新しい身体知を紹介し、
それらが個々の人生や健康の質をどう変化させたのかを探っていきます。

リベラルアーツ(一般教養)として学ぶ

ソマティックワーク入門
−新しい身体知の世界をめぐる−

第13回 「状況を生きるからだ」の声を聴く
フォーカシング 池見陽さん(理論編01)
取材・文●半澤絹子
写真協力●池見陽
取材協力●日本ソマティック心理学協会
心身統合をはかるソマティックワーク。

ムーブメントやハンズオンボディワークで身体の機能や構造を整えるほか、からだを使ってこころにアプローチすることもできます。
フォーカシング(フォーカシング指向心理療法)はその代表の一つ。

思考を使って自分を理解するのではなく、からだを使って自分を知るワークです。

フォーカシングを日本に普及した第一人者である池見陽さんにお話を伺いました。

自分の本音は「からだ」が知っている

自分の感じていることがわからない、というときがある。

仕事でやりがいを感じているのに「これではない」という感覚があったり、ある人に対して好意と嫌悪が入り混じった感情を抱いたりするときなどがある。

「幸せになるにはまず自分の気持ちを知ること」とはよく言われるが、自分の本心がわからないことは多々あるものだ。

「自分のこころが何を感じているのか?」

この問いは人類普遍のテーマであり、古くは宗教や哲学で扱われ、現在では心理学として様々な方法で研究がされている。

今回紹介するフォーカシング(フォーカシング指向心理療法)は、自分の気持ち、つまり「こころの状態」を知るためのソマティックワークである。

フォーカシングのユニークな点は心理療法であるにもかかわらず、「カラダで感じるこころ」を重視するところである。

それは何故だろう?

フォーカシングを日本に普及させた第一人者である関西大学心理臨床学教授の池見陽さんは、「私たちの意識やこころを知るには“からだ”が手がかりになります」という。

フォーカシングの創始者、故・ユージン・ジェンドリン(1926-2017)は、いくつもの心理学賞を受賞したアメリカの哲学者ですが、アメリカの言葉ーーつまり英語には、実は“こころ”という言葉は存在しないのです。
『mind』は“頭脳”を意味する言葉ですし、『heart』は少し感情的すぎる。そもそも英語の Psychology(心理学) という言葉の文頭にある Psyche (サイキ [魂])はギリシャ語で、英語に『こころ』にあたる言葉がないために、その言葉が用いられています。
西洋やアメリカには『身体が滅びても魂は生き続ける』というキリスト教思想や、デカルトに代表されるように『魂(心)』と『肉体』を二分する哲学があり、からだを軽視する傾向がありますが、そのような文化の中でもジェンドリンは『私たちの体験や意識は、必ず“身体性”を帯びている』と主張していました。
たとえば、私たちはよく『胸に手を当てて聞く』とか『身を以て知る』という表現を使いますよね。
わたしたちの“こころ”が動く時、必ず“からだ”が存在します。
ですから、“こころ”を知ろうと思った時、“からだ”を見ていくことが非常に大事なのです。(池見さん)


フォーカシングの祖であるユージン・ジェンドリン氏。写真提供●池見陽さん

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