夢・希望を育てるHP369

徒然なるままにバーチャルワールドを書かせたら、史上最高最強のしがない64歳の爺さんです…

夢・希望を育てるHP369

徒然なるままにバーチャルワールドを書かせたら、史上最高最強のしがない64歳の爺さんです。もはや、誰も私の言うことなどに、耳を傾けてはくれません。せめて社会のお役に立てればと思い、毎日、障害者や高齢者の介護をしています。それでも、夢と希望だけはまだ持ってます。

最近の記事

昭和も末期、政界のトップに登り詰めた宗佑は、 「戦争の混乱期を生き延びたから言えるんや。今の若い人は小さくまとまりすぎだよ。 背伸びすれば、背はどんどん伸びるもんだよ」 と言いながら、ある男との馴れ初めを思いだしていた… 終戦直後だった。シベリアに抑留されて命からがら舞鶴港から故郷にたどり着いた宗 佑は、闇市を宛もなく彷徨っていた。 「こらあ」 闇市の商品を万引きして逃げる男に宗佑は見覚えがあった。 「あいつは、オッサンの手におえる男じゃない諦めな」 宗佑がそう言っているう

    • 冷たい雨

      冷たい雨の降る夕方でした。大作は、ある方の講演会に参加しての帰り道でした。駅 の自動販売機で切符を買っていると、となりの自動販売機の前で何やら話し込んでい る親子づれの会話が聞こえてきたのでした。10歳くらいの娘は、母に不安そうに話 しかけるのでした。 「ねえ、お母さん、100円足らなくても切符買えないよね」 「そうねえ」 「銀行行けば…」 「お父さんの給料前だから、空っぽなの」 「100円もないの?」 「うん」 「この雨の中、歩いて帰るの。駅3つあるよ」 大作は改札へ歩く瞬

      • シンクロ(同期)

        21××年、とっても便利な世の中になった。ほとんど自分に瓜二つのロボットが格 安で手に入るようになったのだ。ぐうたらで、しかも欲張りな誰かさんの子孫である 真理夫には、願ってもないことだ。まず、真理夫はロボットに自分の代わりに会社に 行ってもらうことにした。面倒な仕事や人間関係とも、これでサヨナラなのだ。しか も、このロボットは忠実だから、裏切ることもない。 「帰りに買い物をしてこい」 と言えば、気をきかして、真理夫の大好物のシュークリームまで買ってくるのだ。つ まり、このロ

        • ピンチとチャンス

          アメリカの映画を代表するA賞は、もちろん作品も素晴らしいですが、そこに至るまでの授賞者たちの生き様もドラマチックでした。もう10年になると思いますが、20代の若い監督が短編部門賞を受賞しました。彼の名前をトロとしましょう。トロは、ニューヨークに住む大学生でした。とは言っても、ハイスクールを出てから5年ほど、ファーストフードの店で働いてから大学に入りましたので、当時は25歳くらいだったと思います。トロは、学内で起きたドラマチックな恋愛を映画にしようと思いました。でも、トロにはお

          下を向くな

          かつてのサッカーワールドカップ第1戦ベルギー戦で先行された日本チームメンバーたちに中田選手は「下を向くな」と言って他のメンバーを励ました。それが、その後の日本チームの快進撃につながったそうだ。 この話を聞いた時、父親の跡をついで町の小さな質屋をやっている康雄は、数年前まで勤めていたR社の女社長を思いだした。 康雄が入社して2年目、彼女は康雄の直属の上司で課長だった。彼女は中学生の娘さんと高校生の息子さんの母でもあった。ちょうど、その頃、R社は存亡の危機に瀕していた。とは言って

          幸せになる方法

          もう50年くらい前になりますが、私は、ある女の子を好きになりました。どれくらい好きになったかというと、その子の為なら死んでもいいと真に思うくらいです。中学生の時からでしたから、10年くらい好きだったことになりますね。でも、その子には、ただの友達くらいにしか思いは伝えていませんでした。彼女も、それなりに私のことを思ってくれてはいたでしょうが、私が大学3年生の時に、彼女は別の人と結婚することになりました。それで、私は思いきって、ずっと死ぬほど好きだったって伝えたのです。私は、別れ

          プライベート・グローブ

          20××年、N株式会社から、いつでもどこでも二人っきりになりたい恋人たちのた めにプライベートグローブが発売された。この手袋をはめた二人が手をつなげば、突 如として、二人だけの世界が現れるという優れものなのである。もちろん、二人の脳 の中だけで動くバーチャルな世界であって、たとえば、電車の中で二人の男女がバー チャルな世界に行ってしまっても、外見は二人仲良く手袋をつけた恋人同士が手をつ ないで居眠りしているくらいにしか見えない。誰にも迷惑はかからないし、心の中の 感情や記憶だ

          プライベート・グローブ

          変身

          20××年、J国の少子高齢化は、とことんまで進んだ。 かつては、いつも満員だったJ国の病院だが、閑古鳥が鳴いて廃業するところも 増えてきた。あまりにも爺さん婆さんが増えすぎたため、J国政府は保険負担に 耐えられなくなったので、突如、健康保険法を改正して老人医療費を10倍に 引き上げたためだ。そうなると、あれほど毎日のように来ていた爺さん婆さんが 来なくなった。 Tクリニックも例外ではない。とうとう看護婦を全員リストラして、 すべてT先生ひとりでやることになった。さぞかし大変だ

          雨の運動会

          日曜日だった。もうすぐ式を挙げることになっている陽子と純一は、いっしょに幼い頃からのアルバムを見ていた。陽子と純一は、同じ町に生まれ育った。つまり幼なじみだ。 「ああ…思い出した…ねえ、この写真覚えてる?」 「ああ、これか。たしか小4の時だな。町内の運動会が急な雨で途中で打ち切りになったんだ。それで、公民館でパーティーをやった時の写真…そうだ、オヤジは、これからしばらくして倒れたんだ」 「もう15年になるのね。私のお父さんと飲み友達だったわ」 「ああ…」 「今、思い出したの。

          配置転換

          2×××年、地球はとっても住み良い星になった。地球上は、とても過ごしやすい気温と湿度に調節され、すべての人類は豊かな生活を営み、国家間の戦争はおろか小さな犯罪なども消滅し忘れ去られていた。国家などという組織すら存在しなくなっていた。あるのは、国際連合の進化したものだけだった。この国連が、地球全体を統治していたのだ。でも、この国連すらも、身辺にも、ニュースなどにも、ほとんど登場しない。存在するらしい程度で誰も気にしていない。だから、人類とって地球は、誰からも束縛されることなく自

          超能力者

          10年ほど前、高校を卒業してすぐに、カーディーラーに勤めていたYは、一ヶ月に 1台売れるか売れないかのダメ営業マンだった。しかし、Yのことを良く知る人は、 彼はただ者ではないと口を揃えて言うのだった。Yのどこがただ者でないのかと言う と、Yは顧客の名前を見たり聞いたりしてすぐに、 「ああ、これは売れない」 と言うのだった。 「そんなバカなはずはない。ダメ営業マンは、諦めが早いもんだ」 そう言って、新しく転任してきた凄腕営業所長は、Yが「ダメだ」と言った顧客全員 を当たってみた

          女心は分からない

          5年の修行を経て、ようやく自分の病院を持った歯科医のTさんは、 「女心は分からない」 と言って落ち込んでいた。何でも、病院を開業して半年も立たないうちに、奥さんか ら離婚宣告されたそうだ。理由は、 「あなたは女の気持ちが分からない」 だそうだ。Tさんは奥さんに未練があるのか、それとも納得行かないのか、 「欲しい物は何でも買ってやったし、僕は暴力も振るわないし、酒だって飲まないし、 浮気もしたことないし、一体、何が不満なんだ…」 と息巻いていた。その上、女房に逃げられたことがバ

          チロルチョコレート

          「あら、あなた、これ」 コンビニのレジの前に置いてある直径2センチほどの正方形のチロルチョコを見て、 明子は傍にいる夫の正男に声をかけた。正男は、思わず、「ああ、これまだあるんだ」 と懐かしそうに手に取った… もうすぐ孫が生まれる明子と正男はチロルチョコレートが縁で結ばれた。かれこれ3 0年も前になる。当時はバレンタインデーと言っても、そう騒がれてはいなかった。 明子も正男も中学1年生で同じクラスだった。バレンタインデーの前日だった。明子 は学校の帰りに同じバレー部の同級生と

          魔法

          「髪染めてみようかな…」 「最近は若くなくても髪を茶色に染めているようですよ。 気分転換ですよ」 床屋のオヤジがそう言うので、 「じゃあ、思い切って…」 康夫は生まれて初めて髪を染めた。 康夫は地方の国立大学を卒業して一級建築士になった。 つい最近まで、大手の建設会社のサラリーマンだった。 いつも髪を七三に分けて背広にネクタイで会社に出かけて行ったものだ。 結婚は入社5年目に、上司の紹介がきっかけだった。 子供も女の子が一人。幸せが当たり前のような日々が続いていた。 それが

          混信

          今でこそ押しも押されぬ主演女優のJだが、下積みの時代は とっても長かった。レッスンが終わって寝床のある安アパート に帰っても寂しく真っ暗だった。情けない話だが、テレビも冷蔵庫も クーラーもなかった。そんなJの友達は小さなトランジスタラジオだった。 ある日、Jは歌番組に耳を傾けていた。 突然、何の前触れもなくザーッと音が乱れた。 中国か朝鮮の放送が流れた。 かと思うと、牧師さんの説教のような話が入ってきた、 「もし、欲しい物があったら、もうすでに手中にあると 思って行動しなさい

          死んでも忘れない

          作家のTに同窓会の招待状が来た。 「懐かしいなあ」 何としても、あの頃のメンバーに会いたくなったTは、 徹夜で原稿を作って、東京から新幹線に飛び乗った。 「自分の身体もメールの添付ファイルで行けたらいいのになあ」 そんなこと言いながら景色を見ていると、いつの間にか 眠ってしまった。 「T君…」 Tが目を覚ましたら、懐かしい女の子が隣りに座っていた。 「なんだ、チヨか。久しぶり。どうして、こんな所で」 「私も同窓会に行こうかと思って」 「そうか。それにしても、チヨは変わらないな