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愛をお金で買える若者

第42回吉川英治文学新人賞受賞作!!

時間も金も、家族も友人も贅沢品だ。
共感度120%で大反響、続々重版!
「響け! ユーフォニアム」シリーズ著者が、息詰まる「現代」に風穴を開ける会心作!


遊ぶ時間? そんなのない。遊ぶ金? そんなの、もっとない。学費のため、家に月8万を入れるため、日夜バイトに明け暮れる大学生・宮田陽彩。浪費家の母を抱え、友達もおらず、ただひたすら精神をすり減らす――そんな宮田の日常は、傍若無人な同級生・江永雅と出会ったことで一変する!

愛情は、すべてを帳消しにできる魔法なんかじゃない――。

武田綾乃 『愛されなくても別に』

 中学の頃に受けた道徳の授業で、愛とお金について考えるというものがあった。授業の終わりに先生は、愛はお金では買えないのだと、私たち生徒に諭した。その頃から私は、若者と大人とでは、愛という言葉の持つ意味合いが異なるのではないかと思っていた。2020年に初版が発行された本作を読み、それは確信へと変わった。そして今の私は、2020年代を生きる若者によって形成された愛の持つ意味合いにおいて、愛をお金で買うことができると思っている。
 本作において、愛をお金で買うという行為を最も分かりやすく成立させているように思えるのが、木村という存在だ。木村は主人公の宮田の同級生でありながら、お金に苦労している宮田とは対照的に、アルバイトをせずとも生活できるだけのお金を母親からもらっていることが特徴的な人物である。そんな木村は、物語の中盤でアルバイトを始め、新興宗教の教祖的存在である宇宙様にお金を貢いでいることが明らかになる。
 この展開において、木村は何を求めて宇宙様にお金を貢いだのだろうか。宇宙様からの愛を求めてお金を貢いだという見方もできるだろう。しかしながら私は、宇宙様を崇拝することで形成された、宗教団体という名の「居場所」を、木村は求めていたのだと考える。そして、それこそが2020年代を生きる若者における「愛」なのではないだろうか。
 世間一般的に若者と分類される私は、既存の枠組みに当てはめて物事を決めつけることが、あまり好きではない。多様性が求められる現代社会では、既存という言葉自体が排他的な扱いを受ける対象であり、私もそれに賛同する側面があるからだ。一方で、既存という言葉に同情し、寄り添いたいという感情も沸いてくるのも事実だ。だからこそ、私は結論へとたどり着くことができる。2020年代を生きる若者における「愛」とは「居場所」である。愛が居場所である以上、愛はお金で買うことができる。


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