【医師論文解説】胃管が脳へ!?驚愕の画像と奇跡の生還【OA】


はじめに:

経鼻胃管(NGT)は、頭部外傷患者の初期蘇生において重要な役割を果たしています。

しかし、この一見単純な処置が、時として致命的な合併症を引き起こす可能性があることは、あまり知られていません。

症例:

44歳の男性患者が、交通事故による重度の頭部および顔面外傷の治療のため、地方の医療センターから紹介されました。

病院到着時、気管内チューブと経鼻胃管が挿入されていました。

診断と処置: 頭部CTスキャンにより、経鼻胃管が篩骨の篩板を貫通し、頭蓋内で巻きついていることが判明しました。また、気脳症も確認されました。

C-armガイダンス下で経鼻胃管を慎重に抜去し、他の外傷に対する治療を行いました。長期入院の後、患者は許容できる状態で退院しました。

考察:

経鼻胃管の挿入は、救急部門で最も一般的に行われる処置の一つですが、食道や胃の穿孔、喉頭損傷、気胸、そして今回のような頭蓋内誤挿入などの重大な合併症を引き起こす可能性があります。

頭蓋内への経鼻胃管の誤挿入は、以下の要因により発生する可能性があります:

  1. 頭蓋底または篩板の骨折

  2. 慢性副鼻腔炎による篩板の菲薄化

  3. 鼻腔と頭蓋腔を連結する頭蓋底の欠損

このような事態を防ぐため、交通事故患者へのNGT挿入時には細心の注意が必要です。「アライグマの目」、バトル徴候、髄液鼻漏、明らかな顔面外傷などの頭蓋底骨折を示唆する兆候に注意を払う必要があります。

結論:

NGTの挿入は簡単な処置ですが、合併症のリスクは低くありません。医師や救急隊員は、顔面外傷の有無を必ず確認し、臨床所見を見逃さないようにすべきです。頭蓋底骨折が疑われる場合、NGTの使用は避けるべきです。やむを得ない場合は、直視下または透視・内視鏡ガイド下で口腔経由で挿入すべきです。

文献

Psarras, Kyriakos et al. “Inadvertent insertion of a nasogastric tube into the brain: case report and review of the literature.” Clinical imaging vol. 36,5 (2012): 587-90. doi:10.1016/j.clinimag.2011.12.020

この記事は後日、Med J Salonというニコ生とVRCのイベントで取り上げられ、修正されます。

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用語解説

「アライグマの目」(Raccoon eyes):

両眼周囲の皮下出血によって目の周りが黒くなる症状です。頭蓋底骨折、特に前頭蓋窩の骨折を示唆する重要な徴候です。眼窩周囲の軟部組織に血液が浸潤することで発生します。

バトル徴候(Battle's sign):

耳の後ろ(乳様突起部)に現れる皮下出血のことです。側頭骨や後頭蓋窩の骨折を示唆する徴候です。骨折部位からの出血が重力で下降し、耳の後ろに集まることで発生します。

これらの徴候は、頭蓋底骨折の存在を示唆する重要な臨床所見であり、医療従事者はこれらの徴候に注意を払う必要があります。これらの徴候が見られる場合、より慎重な対応が求められます。

所感:

本症例は、日常的に行われる医療処置にも重大なリスクが潜んでいることを改めて認識させられる貴重な報告です。特に外傷患者に対する処置では、二次損傷を防ぐための慎重なアプローチが不可欠です。

今回報告された蛍光透視下でのNGT抜去法は、脳への二次損傷を予防する新しい方法として注目に値します。しかし、その有効性を証明するにはさらなる研究が必要です。

この症例は、医療従事者間でのリスク認識の共有と、緊急時におけるプロトコルの再確認の重要性を強調しています。また、画像診断の重要性も再認識させられます。

今後は、NGT挿入時の安全性向上のための新たなガイドラインやトレーニングプログラムの開発が期待されます。同時に、代替的な栄養補給法や胃内容物吸引法の研究も進めるべきでしょう。

最後に、本症例のような稀で重篤な合併症に対して、迅速かつ適切な対応ができたチーム医療の重要性も強調したいと思います。


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