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【医師論文解説】心肺蘇生の限界が判明!?39分で生存率1%!?【OA】

【背景】

院内心停止は米国で年間約30万人の成人患者に発生する重要な公衆衛生問題であり、死亡率が高い。2000年から2010年にかけて、院内心停止後の生存率は改善したが、2010年以降はプラトーに達し、約25%の患者が生存退院に至っているにすぎない。自己心拍再開を得ることが長期生存と良好な機能回復への第一歩となるが、約半数の患者では自己心拍再開が得られずに蘇生が中止されている。自己心拍再開が得られない場合、臨床医はさらに心肺蘇生を続けるべきか判断に困る。院外心停止では、自己心拍再開までの長い前病院心肺蘇生時間が予後不良と関連することが示されているが、院内心停止では心肺蘇生時間と転帰との関連は十分に検討されていない。

【方法】

米国心臓協会のGet With The Guidelines-Resuscitation(GWTG-R)院内心停止前向き登録レジストリのデータを用い、2000年から2021年に参加施設で蘇生処置拒否指示がなく心肺蘇生を受けた18歳以上の成人患者34万8,996例を対象に、後ろ向きコホート研究を行った。主要アウトカムは生存退院と退院時の良好な神経学的アウトカム(脳機能カテゴリースコア1または2)とした。心肺蘇生時間は胸骨圧迫開始から自己心拍再開または蘇生中止までの時間と定義され、蘇生中止はすべて適切であったと仮定した上で、各分時点で自己心拍再開が未だ得られていない患者が、より長く心肺蘇生を受けた場合にその後生存や良好な神経学的アウトカムに至る時間依存確率を算出した。

【結果】

対象34万8,996例中、23万3,551例(66.9%)で自己心拍再開が得られ(中央値7分)、7万8,799例(22.6%)が生存退院した。一方、自己心拍再開が得られなかった11万5,445例(33.1%)では蘇生中止までの中央値は20分であった。心肺蘇生時間1分で自己心拍再開が未達成の患者における、その後の生存確率は22.0%、良好な神経学的アウトカムの確率は15.1%であった。これらの確率は心肺蘇生時間の延長とともに低下し、生存確率は39分で1%未満、良好な神経学的アウトカム確率は32分で1%未満となった。若年、目撃あり、初期しょく性不整脈では、長い心肺蘇生時間でも確率が高い傾向にあった。

カテゴリ-1:意識障害、機能障害なし。
カテゴリ-2:意識障害はないが、中等度の機能障害あり。
カテゴリ-3:意識障害はないが、高度の機能障害あり。
カテゴリ-4:昏睡状態もしくは植物状態。
カテゴリ-5:死亡。 

【論点】

本研究では、心肺蘇生時間1分ごとの生存や良好な神経学的アウトカムの時間依存確率を明らかにした。この結果は、蘇生チーム、患者、家族に対し、引き続き心肺蘇生を行った場合の、自己心拍再開未達成患者の客観的予後を示すものである。確率は経過時間とともに低下し一定値で落ち着くが、その値は従来の1%以下の生存確率による"無益"基準よりも高く、蘇生中止の決定には単に心肺蘇生時間のみでなく総合的判断が必要と考えられた。確率は患者の年齢、目撃の有無、不整脈の種類によっても異なり、若年で目撃ありの症例ではより長い心肺蘇生から恩恵が期待できる可能性がある。一方で施設間のアウトカムの違いもあり、今回示された確率は本研究データ全体の平均値に過ぎず、各施設での確率は異なる可能性がある。

【結論】

本大規模院内心停止レジストリの解析により、心肺蘇生時間経過に伴う生存と良好な神経学的アウトカムの時間依存確率を定量化した。この結果は、心拍再開未達成患者に対してさらに心肺蘇生を継続した場合の、良好なアウトカムが得られる客観的確率を、蘇生チーム、患者、家族に示すものである。

【引用文献】
Okubo, Masashi et al. “Duration of cardiopulmonary resuscitation and outcomes for adults with in-hospital cardiac arrest: retrospective cohort study.” BMJ (Clinical research ed.) vol. 384 e076019. 7 Feb. 2024, doi:10.1136/bmj-2023-076019

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