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【連載小説】ハンドメイドの城(4)

(4)

由香ゆか何してんの?」
空きコマ、いつもの場所に由香がいなかった。カフェテリアに行くと、そこにカフェテリアの制服を着た由香がいた。

本格的に暑くなってきて、冷たいものが欲しくなった。
カフェテリアのカフェモカが、私は好きだ。
糖分補給にもなるし、ちょっと苦いところがあるのも好き。

どうせ1人だしって思ってカフェテリアに行ったら、由香がいた。

もう一度聞く。
「由香、何してんの?」

「バイト始めたの。学内だからバレないかなって」

由香はいつもそうだ。
私より、なにかに気づくことや何かを実行するのがはやい。
また置いていかれた気になる。

「もうすぐ上がりだから、ちょっと待っててよ。話したいことあるの」
「わかった。そこの席にいるね」

数分後、由香がやってきた。

「おつかれ」
「おつかれ〜ありがとね。待っててくれて」
「どうせ空いてたし」
「そっか」
「てかいつの間にバイト始めてたの。学内にあるのも知らなかったけど…」
「あぁ…これは、教育学部の先輩が教えてくれたの。カフェだけじゃなくて図書館のバイトもあるんだって。先輩はそっちやってる。現金手渡しだから上手くやればバレない」
「すごいね。私が知らないうちに、由香はどんどん進んでく」

おいていかれる。そんな気がしてならない。

「梨咲もやったらいいじゃん。紹介するよ」
「………やる」

このままおいていかれてたまるか。
自分のためにも、やってやる。

「由香おつかれ〜」

突然、男性の声が由香を呼んだ。

由香の名を呼ぶその人は……チャラかった。
失礼かもしれないけど、第一印象は何ですかと聞かれたら間違いなくこれだ。

八木やぎさんお疲れ様です。講義終わりですか」
「いや、サボった」
「またですか。そんなんで大丈夫なんですか?」
「大丈夫だって。勉強できる方なんだ、俺」
「そうですか」

やれやれといった感じで由香は返事をする。きっとこの人が言ってた先輩なのだろう。

「あ、この人がさっき言ってた先輩。八木さんね」
「どうも。八木恭一きょういちっす。教育学部3回生っす」
「あ、えっと、滝川梨咲たきがわりさです。文学部の1回生です」

ぎこちない自己紹介を終えて、不思議な時間が流れた。

「あ、そうだ。八木さん。この子紹介してあげてよ。図書館のバイト」
「あぁ、この子が言ってた子?オッケー。空いてる時間とかある?一回面談してシフト決めたらすぐ始められるから」
「そんなすぐできるもんなんですね」
「学内バイトなんてそんなもんよ仕事も複雑じゃないし」
「じゃあ、お願いします」

2日後、私は八木さんと一緒に図書館のバイトの面談に行った。

あっさり決まって、次の週から始めることになった。

手を伸ばせば、届くんだ。
日常は少しずつ変わり始めている。

(続く)


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