【連載小説】ハンドメイドの城(5)
(5)
少しずつ、バイトに慣れてきた。
空きコマがあればバイトしてる。
授業終わりに入ると、帰る時間が遅くなるからバレると思って。
その点、由香は少しツメが甘かったようだ。
「最近帰りが遅いって言われちゃったんだけど………バレてないよね?」
「バレないバレない。学内でしょ?お金も手渡しだし、上手く隠してる。シンプルに心配してるだけだよ」
「そうだよ。心配してるだけ。もともと伝えてた通りの時間で帰ってないってだけでしょ」
横で若葉先輩も続く。
「そうかな……もしバレたら私、辞めなきゃいけなくなる、いやそれだけじゃ済まないかも」
「大丈夫。心配事の9割は起きない」
強く優しい声。由香は黙り込んだ。
「おぉ由香!それに梨咲ちゃんも!今日もおつかれ〜」
なんにも気にしてないような明るい声が飛んできた。由香は自然と笑ってた。
「八木さんお疲れ様です。今日の授業は?」
「今日はちゃんと出た。えらいだろ?」
「普通です」
3回生の八木さん。相変わらずだ。
「え、恭一?なんでここに…ってかあんた達どういう関係?どうなってんのこれ」
若葉先輩が言い出した。
え、どういうこと?
「若葉先輩もしかして知り合いとか……」
「え、若葉!?お前、峰岸若葉?」
「やっぱそうだよね!?恭一!あんたなんでこんなとこいんの!」
「ここの教育学部行ってるからな」
「あんたが教育?子ども泣きそう」
「ひでぇな」
なになになに。意味がわかんない。
横にいる由香も私と同じことを思ってるだろう。
私たちを置いて散々盛り上がったあと、八木さんが言った。
「俺と若葉、小学校の時からの幼なじみ。途中で若葉引っ越したし、高校別だったしですげぇ久しぶりに会った」
「まさか同じ大学とはね」
なんかもう、それだけで十分だった。
*
「なぁ、料理ってどうやったらできるんだ?」
「何よいきなり」
八木さんの一言に、すぐさま若葉先輩がつっこんだ。若葉先輩の横に座ってる由香は、ニヤニヤ笑ってる。
「これは今に始まったことじゃないんですよ、若葉先輩」
「恭一、そんなに料理できない人だっけ?」
「ひとり暮らしするってなったらちゃんとできるようにしないとだろ。若葉教えてくれないか?頼む!」
「めんどくさいなぁ」
「ハーゲンダッツ奢るから!」
「グリーンティー味でよろしく」
「よっしゃ!!」
「まったくもう…」
呆れながらも、若葉先輩はニヤニヤしている。ハーゲンダッツがそんなに嬉しかったのだろうか。
「夏休みにでも家来る?」
「え?」
私も含め、3人の声が重なった。
「恭一もだけど、梨咲や由香もいずれはひとり暮らしするんでしょ。料理できるの?」
「そう言われるとちょっと……」
「怪しい………」
「よし決まり、わかったらでいいから予定教えて」
「とりあえず私たちは許可取るところからだね」
「がんばろう」
それから少し喋って、帰路についた。
ここからが勝負どころだ。
私は今まで、あまりまともに友達と遊びに行ったことがない。
あの人達は許してくれるかどうか。
それを見る。
(続く)
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