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世界は一つ。人類のルーツに迫ったロマンあふれる良作 ~点字図書『世界神話学入門』

『法友文庫だより』2024年春号から

 亡くなった妻に会いたい一心で、死後の世界へ足を踏み入れる。さて、こ れは日本神話におけるイザナギ・イザナミの話でしょうか。それとも、ギリシャ神話のオルフェウスとエウリディケ?

日本とギリシャ。遠く離れた、文化も言語も違う国同士なのに、同じような神話のモチーフが用いられています。ギリシャだけでなく、エジプト、北欧、中央アジアなど、世界中の神話には、どこかしら類似点があるのです。これは一体、なぜなのでしょうか。

 人類の大陸移動に関係がある。そんな説を打ち出しているのが、この『世界神話学入門』で紹介されている「世界神話学説」です。


 アフリカで生まれた人類は、長い年月を経て大陸を移動し、進化し、文化を作ってきました。移動ルートは主に2つ。かつて北半球にあったローラシア大陸(後にユーラシア大陸・アメリカ大陸に分離)と、南半球にあったゴンドワナ大陸(後にアフリカ、南アメリカ、オーストラリア、インド、アラビア半島等に分離)のどちらかを通るルートです。

 遺伝学、言語学、考古学で導きだされたこの2つのルートと、神話の分布がみごとに一致しているのだと本書では解説しています。人類はまだ石器を使っていた時代から、あるいはそれより前から、神々や天上界、死後の世界を想像し、言語を通じて仲間と共有していた……。なんてスケールの大きい、ロマンあふれる学説でしょうか。わくわくして、ページをめくる手が止まらなくなります。

 日本人とギリシャ人、お互いの国は遠く離れていますが、はるか遠い昔の先祖は、一緒にローラシア大陸を移動してきた仲間同士だった。だから日本神話とギリシャ神話が似ているのだと思うと、遠い国の人たちが一気に身近に感じますね。

 この本を読んでいて、思い出した和歌があります。

   よもの海 みなはらからと 思ふ世に
   など波風の たちさわぐらむ

    (四方の海にある国々はみな、きょうだいだと思っている世の中
     であるのに、どうして波風がたちさわぐのだろうか)

 明治天皇が平和を願って詠まれた御製です。
 四方の海、そして大陸でつながっている人類なのに、今なお各地で戦争が起きていることに心が痛んでなりません。
 この書は読者のアカデミック心をくすぐるだけでなく、視野を広げ、世界に目を向ける大切さを教えてくれます。ぜひご一読ください。

書籍情報
『世界神話学入門』
著者:後藤 明
出版:講談社現代新書
ジャンル:学術書、神話学


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