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梟 フクロウ

2024/2/22

ほめです。
これほどまでに映画館で鑑賞することをオススメできる作品も珍しいかもしれません。
大半のシーンが暗闇であり、視覚障害者であるギョンスのキャラクター性も相まって闇に沈んだ画が多いのですが、
映画館内の薄暗い空間までもが一体化したかのように感じられることでの没入ぶり、臨場感はそうそう体験できるものではありません。
よくよく考えてみれば、映画を鑑賞する時って観客は闇の中から見つめていますもんね。

ギョンスの命はあまりにも軽く、内医院での生活は些細なきっかけでまさしく吹けば飛ぶかのような緊張感に満ちる。
踏みつけられるかのように生きてきた人間にとって、弟にまで危害が及ぶことは何よりの恐怖であり、
長いものに巻かれない選択を取ることはまさに死に直結する。
それでもなお世子のために行動したことは、
職業的倫理感や仁義、正義感といった諸々の価値観が並外れているからこそで、
なかば自己犠牲の精神であり、儒学の思想を強く感じます。
自身の状況を鑑みればこの選択は破滅的なのですが、
こういったな利他的選択ができることにより動く状況というものが物語の推進力たり得るので、
その分一矢報いるべく、やれ盛り上がってきたと思いきや起こるあの政略的展開はリアルでやるせなく、
「感染症です」のしめ方はなんともエンタメとしてきれいにオチています。
なにより光というものが象徴する善性や希望、いわゆるライトサイドのイメージがこれほど覆ることも中々ないのではないでしょうか。
冒頭のシーンから受けた印象が、終盤まったく同じものを見ているのに、もはや絶望といってもいいほどに豹変する。
あまりにも見事で、唸らされる構成。
また、王役のユ・ヘジンの怪演も見どころと言っていいでしょう。
口角泡を飛ばす演技のやだみ具合に、あからさまな敵役は構図がはっきりして収まりがいいですね。

気になる点といえば怪我が目印としてすら、さほど役にたっておらず、
出血量の割にあれだけ全力で走れるのは不自然だよな、とは。

身体的ダメージがなかったかのような演出は興が削がれるので困ります。
また、トントン拍子に重用されるので、宮中のお偉方の信頼を獲得する内医院のパートに物足りなさを感じる部分もありました。
コメディリリーフとしての同僚たちも、もっと動かせたのではないかと思うのです。

見ること、とは。
虚実の差、信じたいもの。見たいもの、見たくないもの。
光と闇、明暗の妙。
人としてどう生きるのか、どうあるべきなのかというテーマ性がはっきりわかる作りでした。



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