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別れる決心


ネタバレしますので注意

感情移入はソン、刑事さんのどちらにも出来ないと感じた。誰か1人を長い時間映さないカメラワークと、感傷的なBGMが載せられるわけでもないので、共感という感情は湧かなかった。
が、ソンに関して【同情理解納得】の感情が過多に湧いて、映画を見ていて何故?どうして?と思うことがなかったので、テンション高めの「おもしろ〜い!」じゃない、「面白い」の感情がある。最期の方法は想像出来なかったけど。

男ずるすぎる。
ソンの犯行だと気がついたのに見逃したことが誇りを失わせたということだと思うけど、「崩壊しました」って言っておいて一緒に殺人をするわけでもないし、むしろそこで突き放して別れようとする点で理性的すぎてソンが救われないなあと思ってしまった。

奥さんとの関係も切れないままで、どちらともうまくやろうとする感じは「崩壊した」って言えるのか?刑事として信念を持ってやってたときの自分は「崩壊した」んだろうけど、人間としての道徳は「崩壊」してない。愛と道の間で揺らぐのが愚か。
最後まで特に奥さんに本当のことを言うわけでもなく、奥さん勝手に言ってしまえば勘違いして出て行ってしまうけど止めもしない。夫婦生活が完全に義務の上で成り立ってたから最後にセックスのことを聞いたのか?
刑事の方がめちゃくちゃになるのは、完全に崩壊するのもうすぐ!これからですよ!と思った。

山で始まって海で終わるこの映画を、動かざること山の如しの理性的で模範的だった男が崩されて海に流されるという暗喩と受け取った。

ソンが刑事の音声を頼りに、あの瞬間の記憶だけを頼りに、生きてきたっていうことがすごく納得できた。「崩壊」を「愛してる」に捉えるの、とても納得出来る。自分のせいで相手がめちゃくちゃになることが、自分が愛されていると分かる最高の方法だと思う。

彼女には帰る場所もないし、天涯孤独なわけで、欲しいものは手に入らないと分かっている。
「僕がいつあなたのことを愛してると言いましたか」と刑事に言われて、彼女がどれだけ絶望したか分からないし、自分の死に方によってどれだけ刑事に絶望を味わせられるのかと思ったときの高揚感のあの笑顔は、理解出来るなあと思った。

音ハメみたいな音楽も凄く良かった。

目薬はなんなんだろう。目薬をさすまでは視界がぼやけている→目薬をさした後に視界がクリアになる。視界と思考をリンクさせている隠喩なのかなと思った。

後は言葉の違いを本当にうまく使っていて、何を言ってるかわからない状態ってセクシーだなあと思った。相手が何を言っているか分からない、でも確かに何かを訴えている、喋ってるって言う状況は相手の話を何とかして聞き取ろうって言うそういう心は、相手を理解したいという気持ちが一番現れる場面なのだと思った。
恋愛をはじめとして、名前のつく関係であっても、人間同士が絶対に分かり合えるってことはないし、「愛の不可能性」を【言葉の違い】と【相手を愛してると自覚するタイミング】の違いを映像で表したっていうのがすごい。言葉で説明するよりも演出で観客に伝わってるってことがすごい。

追いかけていた犯人が、途中で死ぬときに、犯人の愛する女が現れた瞬間に「俺が最後に愛してたって伝えてくれ」みたいなこと言ってたのが突然「言わなくていい」って言って落ちていった時に、相手の心にずっと残りたいっていう執念、相手をめちゃくちゃにして壊れさせたいみたいな感情は恋愛において絶対あるから、わかるし、そのシーンとラストがうまくつながってうまいなぁと思った。

ザクロはなんだ?

愛の不可能性と、恋愛による自己同一性の崩壊が主題だと思った。
面白かったです。

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