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闇の絵本『おぞましい二人』ゴーリー・レビュー

「絵本は予定調和」という固定概念をぶっこわしてくれる絵本がこれ。

おぞましい二人』です。

闇の絵本作家であるゴーリーによって描かれ、実話を元にしたストーリー。

子供を誘拐してはコロす「忌まわしいカップル」の物語。

原書が発売された当時は非難の嵐。

返本の山が築かれたといいます。

怖いものみたさで読みましたが、読んでみるとたしかにその理由がわかります。

ストーリー

原題は「The Loathsome Couple」で、直訳するならば「忌まわしいカップル」。

物語はカップルの幼少期からスタート。

二人の育った環境には、すでに不穏さが漂っています。

成長した二人は出会い、郊外に家を借りることに。

そして、たんたんと子供をアヤめていきます。

まるで、ふと散歩に出かけるかのように、自然に。

一見すると平穏な日々を送っているカップルですが、その裏には秘密が渦巻いています。

元の事件

元となったのは「ムーアズ殺人事件」とよばれる実際の出来事。

その事件を知ったゴーリーは激しく動揺。

ゴーリー自身が、この本だけは「どうしても書かずにいられなかった」と語っています。

訳者の柴田元幸さんは、以下のように考察しています。

(前略)何とかして理解しようとしたのか、その呪縛から逃れようとしたのか、どちらであれ、とにかく、まずは正面から向かわぬことには理解も解放もありえないという思いで、事件を徹底的に再想像/創造しようとしているように思える。

おぞましい二人』訳者あとがき

似たようなおぞましい事件は、現代日本でたくさん起きています。

それに対して、ぼくたちはは悲しむだけでいいのか?と問いかけられているような気がします。

一市民として対策を考えることも重要ですが、クリエイターとして事件に深く動揺し、人の心の闇を赤裸々に見せつけるような作品の創造も重要だと感じさせます。

引き算の美学

本書では徹底して俯瞰的に描かれています。

ゆえにおぞましい行為や、その理由の説明も一切なし。

解釈はすべて読者にゆだねられています。

ですので、この本への評価は分かれ、床になげつける人もいれば、病みつきになる人も。

ぼくは後者でした。

こんな世界や、こんな人たちもいるよ、と、この世界の不確実性や不平等性、無秩序性を教えてくれます。

ゴーリーが読み込んだ資料は莫大にあったはずですが、この短い絵本へのおとしこみは見事。

まさに引き算の美学によって産み落とされた作品といえます。

まとめ

ゴーリーの短いながらも雄弁な文。

そして緻密な筆致によって描かれた登場人物たち。

たくみなストーリーテリングによって、読者は物語の世界にひきこまれます。

おぞましい二人』は、単なるスリラーやサスペンスとは異なり、その不気味な佇まいに心がえぐられます。

実際におきた殺人事件を描いた傑作といえば、カポーティの『冷血』が思い浮かびます。

その名作と同じように、衝撃的な事件が淡々とかたられ、みごとにその心の闇を描き切っています。

そこにむしろ清々しさを感じます。

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