読書は格闘技:瀧本哲史さんの遺した知的興奮
最近、ぼくは瀧本哲史さんのことをよく考えるようになりました。
マッキンゼー出身で、エンジェル投資家、京大客員准教授という経歴を持つ、まさに才人。
そして、47歳という若さでこの世を去られた方です。
なぜ最近になって彼の本に惹かれるのか。
自分なりに考えてみると、それは恐らく「死は突然やってくる」という現実を突きつけられたから。
南海トラフ地震のような大規模災害や、日常のちょっとした事故など、いつ死が訪れるかわかりません。
若くしてこの世を去った彼の言葉には、どこか生々しい現実感が宿っているように感じます。
瀧本さんの没後に発表された最後の著作が『読書は格闘技』という本。
本書は、13のテーマを取り上げ、それぞれのテーマについて代表的な2冊の本を対比させながら、深く掘り下げていきます。
今回は、そのなかからとくに興味深かった3つの視点についてご紹介。
1. 人の心をつかむ本:科学と経験の狭間で
『人を動かす』と『影響力の武器』という、いかにして人の心を動かすかというテーマで書かれた2冊が比較されています。
『人を動かす』は、人々を誉めることや、相手の立場に立って考えることの重要性を説く、いわば「人間関係のバイブル」のような本です。
その内容は、東洋の伝統的な教えにつうじるような、普遍的な人間関係の原則を示しています。
しかし、一方で、その内容が必ずしも科学的な根拠にもとづいているとは言えません。
対照的に『影響力の武器』は、社会心理学の知見にもとづいて、人がなぜある行動をとるのかを科学的に解き明かそうとする本です。
その冷徹な分析は、人間をまるで実験動物のように扱っているように感じられ、どこか不気味さすら感じます。
そもそもは本書は、著者自身が「人の頼みを断れない」という悩みから産まれました。
そのうえで、「どうやって断るか(どうやって説得されないか)」に主眼がおかれています。
ただ、そんな著者の意図とは裏腹に、現代のマーケティングで「どうやって売るか」と活用されているというから、興味深いです。
2. 時間管理の本:全体と個別の最適なバランス
『はじめてのGTD』と『ザ・ゴール』は、どちらも時間管理に関する本ですが、そのアプローチは大きく異なります。
『はじめてのGTD』は、「やることリスト」を効果的に管理することで、タスクの漏れを防ぎ、生産性を向上させる方法論を提示しています。
この方法は、個々のタスクに焦点を当て、それぞれのタスクを効率的にこなしていくことに重きを置いています。
一方の『ザ・ゴール』は、企業全体の生産性を向上させるための方法論を提示しています。
この本では、生産システムの中において、一番おそい「ボトルネック」を見つけ出し、そのボトルネックを解消することで、全体の生産性を最大化することを目指します。
この2冊の対比を通して、ぼくたちは、個々のタスクの効率化と、全体最適化のバランスの重要性について考えることができます。
3. マーケティングの本:新しい市場を開拓する
『キャズム』と『ポジショニング戦略』は、どちらもマーケティングに関する本です。
『キャズム』は、新しい製品やサービスを市場に広めるさいに、初期の顧客から、メインストリームの顧客へと広がる過程で必ず乗り越えなければならない「キャズム」と呼ばれる谷の存在を指摘しています。
この本では、このキャズムを乗り越えるための戦略がくわしく解説されています。
しかし、情報が広まりやすくなった現代、初期の顧客に受け入れられた「まだ洗練されていない商品」が、メインストリームに酷評されてしまい、撤退してしまうというケースも。
一方の『ポジショニング戦略』は、消費者の「保守性」に注目。
競合他社の製品やサービスと差別化するための、「消費者の心の中に明確な位置づけ」を確立する方法を提示しています。
この2冊の対比を通して、ぼくたちは、新しい市場を開拓する際の戦略について、多角的な視点から学ぶことができるでしょう。
まとめ
『読書は格闘技』は、単に本を読むだけでなく、書かれた内容に対して批判的に考え、自分の意見を形成することの重要性を教えてくれます。
そして、多様な視点から物事を捉え、自分自身の思考力を深めるためのヒントを与えてくれます。
本書で紹介されている「104冊」の書物は、まさに知的探求の羅針盤。
本書を読むことで、自分を取り巻く世界をより深く理解し、自分自身の人生をより豊かに生きるためのヒントを得ることができそうです。
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