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【読書】俳句の基本的な作り方が分かりやすい『芸人と俳人』

ひと昔前まで日本の知識人の間で、ひとつの教養として俳句がたしなまれていましたが、現代では俳句はとてもマイノリティーにものになってしまいました。

しかし日本文化に興味のある人は、松尾芭蕉や正岡子規など、歴史に名を残す人たちの俳句を理解してみたいと思うはず。

そして、たったの17文字で作れるのだから、どうせだったら自分でも作ってみたいと思われる方もいるでしょう。

そんな方々に役立つのが『芸人と俳人』という本で、芸人であり作家でもある又吉さんに俳人の堀本さんが俳句をわかりやすく教える本です。

本書の魅力を3点ほど紹介します。

①又吉さんの発想法・創作術を知ることができる

本書では、又吉さんと堀本さんの会話がベースなのですが、その中で又吉さんの創作方法を語る場面があり、芥川賞作家は日頃どのように「言葉」と向き合っているのかということを垣間見ることができます。

以下、本書で紹介された彼の発想法・創作術をまとめました。

・ひっかかる短いフレーズをノートにメモ

たとえば、又吉さんはもともと言葉に興味があって、ひっかかる言葉や、面白い言い方を短いフレーズにして、ノートや漫才のネタ帳の端に書いていたこと。

これらは本人にとって「捨てたくないことば」で、「おもしろいタイトルを考えよ」というお題に答えている感覚。

いつか自分が単独ライブをやるときのためのネタ作りとして行なっており、ノートで30冊分たまっているそうです。

・ひたすら散歩することできっかけ探す

またエッセイの仕事では、描こうとしているテーマに対して「強く思う瞬間」がないと書けないとのこと。

その「強く思う瞬間」を見つけるために行っているのが「ひたすら散歩」。

散歩の途中で、他人の会話や風景などから「今ならなんでも思いつきそうという感覚になる時」が訪れるのを待つそう。

そして、散歩中に思いついた面白いフレーズは携帯にメモしているそうです。

・電子辞書で言葉のイミを調べる

又吉さんはいつも電子辞書を持ち運んでいるそうです。

気になる言葉を引いて、そこから入って何かをつくるとのこと。

②俳句を作りたくなる

本書では、子供の頃から俳句に憧れを感じつつも、同時に恐ろしさを感じていたという又吉さんに、堀本さんが優しく導いていく2年間が記録されています。

又吉さん、堀本さんの「飾らないやりとり」が非常に心地よく、回を重ねるごとに又吉さんの俳句に対して抱いていた恐怖感を少しずつ解きほぐされ、前向きに楽しんでいく様子が伝わってきます。

又吉さんは、堀本さんの手ほどきを通じて、「基本的なルールはあるものの、俳句も自分なりに鑑賞していいのだ」ということや、「自分以外の誰かの解釈に数多く触れることによって、さらに俳句は面白くなる」ということを発見。

堀本さんの指導が素晴らしく、こちらまで俳句を作りたい気分になります。

自分が大学生ぐらいのときに本書に出会っていたら、俳句が間違いなく好きになっていたと感じる一冊。

お二人が作られた俳句で、個人的に好きな俳句を二句紹介します。

モヒートのミントあふれて星祭り

夕しぐれ幼き翁吠えにけり

③俳句の基本的なきまりを課題を通して楽しく学べる

本書では俳句の基本的なきまりを分かりやすく楽しく学べる工夫が盛り沢山。

先生から生徒への一方的な講義形式ではなく、実践しながらのやりとりが平易なことばでつづられており、とても分かりやすく面白いです。

特に面白いと思ったのは、堀本さんと又吉さんの「感性の鋭さ」と「独特な視点」で、彼らがいかに俳句を生み出すのか、また、いかに俳句を解釈するかという思考プロセスを追体験することができ、なんともいえない高揚感を味わうことができます。

また、又吉さんの興味や関心、話題の流れに応じて、堀本さんが「こんな句がありますが、どう感じますか?」というように先人たちの句を提示するなどして、俳句を「生き生きとした」「おもしろい言葉遊び」のように感じさせる教授法に驚きました。

又吉さんと一緒に、読者も立ち止まって堀本さんから出される課題に挑戦し、その後、又吉さん堀本さんの解釈を読むことで、読み手も俳句の基本が身に付けることができます。

本書で紹介される課題は、例えば「三冊の句集からそれぞれ好きな句を10句選び、披露し合う」というもの。

この時に使用された句集は以下の三冊です。

はじまりの樹
風車
尾崎放哉全句集

また、鎌倉の寺院や文学館などを巡りながら非日常に浸り、句をひねるという「吟行」を通じて、俳句の楽しさが深まる様子も収録されています。

本書で学べる俳句の知識やテクニックは以下のようなもの。

・「五七五の定型」
・一句に一つの「季語」
・「歳時記」について
・奈良・平安あたりに十七音の定型が生まれたことや、正岡子規の俳句革新運動などの「俳句の歴史」
・頭の一音を繋げて、何かの名前にする「折句」

俳句に興味のない方も、是非一度お読みになると、俳句に対する考えがガラっと変わると思います。

おまけ:又吉さんのお笑いのパターン

お笑い芸人というのは、自分の立ち位置や役割が大切。

本書では又吉さんの「笑いのパターン」が開示されており、たとえば「下ネタ川柳を作る」というお題では、他のメンバーは「めちゃくちゃエロいことをド直球に言う」か「そもそも五七五になっていない」という2つのパターンが想定される。

そのどちらも又吉さんの役割ではないので、逆に綺麗な川柳を作り「誰がうまく作れって言うてん!」と突っ込まれるのが又吉さんの笑いに一番近い。

また、物ボケでは一切説明せずに、その物と自分が属している世界の一部を切り取って見せるというやり方をするなど。

まとめ:又吉さん、堀本さんのオススメ俳句本

芸人であり芥川賞受賞作家である又吉さんが、プロの俳人の手ほどきを受けながら、俳句の世界に足を踏み入れ、俳句を理解していく光景が楽しく描かれています。

本書は「すばる」2012年10月号〜2014年10月号に「ササる俳句 笑う俳句」として連載されたものに加筆修正されて出版。

俳句に興味がある人、俳句を始めようとする人、ある程度やってきた人にもうってつけの本です。

最後に本書の中でお二人がオススメしていた本をまとめます。

現代の俳句
俳句と出会う
覚えておきたい極めつけの名句1000


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