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レビュー『細雪(上)』

文豪・谷崎潤一郎の『細雪(上)』を読みおわりました。

『細雪』は『文豪ストレイドッグス』で知り、気になっていた作品。

昭和初期の大阪の上流家庭を舞台に、仲のいい四人姉妹、鶴子、幸子、雪子、妙子の日常をつづり、阪神間モダニズム時代の生活文化を描いた長編小説です。

あらすじ

大阪・船場の旧家である蒔岡家は、亡き父の事業の失敗で、やや家運が傾きかけており、長女・鶴子と次女・幸子は既に嫁いで家庭を持っています。

三女の雪子には次々と縁談が舞い込みますが、おとなしいたちでなかなかうまくまとまらず、三十歳にしていまだに独身。

独立した気性を持ち、浮名を流す四女・妙子は、「姉が結婚するまでは」と自身の結婚を我慢しています。

上巻では三女・雪子の2つの縁談が描かれ、最初の縁談では、相手男性の母親が精神病にかかっていると判明し破断。

次の縁談では、相手男性のデリカシーがなさ(自宅に招き、亡くなった前の妻と子供たちの写真を見せる)に幻滅し、これも破断しています。

感想

全編の会話が船場言葉(せんばことば)で書かれており、このことばは、大阪市の中心業務地区である船場の商家で用いられていたもの。

昭和中期まで、「折り目の正しい大阪弁の代表格」として意識されていたことばです。

四人姉妹の人物像が見事に書き分けられ、彼女らのこころの移ろいを、まるでキャッチボールをするかのように、丁寧かつ詳細に描かれ、長い話であるにもかかわらず没頭して読むことができました。

姉妹はそれぞれ常識派、几帳面、奥手、自由奔放と、個性的に生きていく様が描かれ、個々の視点が見えるようで風情があります。

厳格な本家の鶴子と人を甘えさえる分家の幸子、中にこもりがちな雪子と外に出て行く妙子、それぞれの対比が鮮やかです。

著者

著者の谷崎潤一郎1886年に東京で生まれました。

東京帝国大学国文科中退したのち、1910年、第2次「新思潮」創刊に関わり、同年「刺青」を発表。

『痴人の愛』『卍』などの耽美主義的な作品で知られ、生涯で3度の『源氏物語』現代語訳を手がけ、1949年には、第8回文化勲章を受章しています。

『細雪』は谷崎潤一郎が日本文化の伝統を後世に残そうと戦時中の灯火管制の下で
執筆した作品ですが、戦中に発禁指導を受けました。

発禁のくわしい理由はわかりませんが、『細雪』を読んだ人が「安泰だった過去」への思いを強くしかねない内容だったからなのではと思いました。

おわりに

谷崎潤一郎の代表作ともいえる本作は、上流階級社会の何気ない日常と、美しく移ろう四季、そして関西の街を描いた作品。

第二次世界大戦前の崩壊寸前の上流階級の生活を描き、「滅びの美」を内包した作品で、1936年(昭和11年)秋から1941年(昭和16年)春までを描いています。

『細雪』は「さざめゆき」と読むと思っていたのですが、正しい読み方は「ささめゆき」で、アマゾンのKindleで無料で読めます。

なんといっても素晴らしいのはストーリーと登場人物を描写しきる谷崎の文章で、句読点もすくなく、長い文なのにすらすらと読め、分かりやすく、ぜひとも真似してみたいと思いました。

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