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たけとりものがたり 10枚目

今でもカチコチカチコチあのお山で鳴ってるかもね。
 
時は過ぎ、坊主も妹の婿坊主も往生し、
叔父坊主も寝たきり、
「僕」は「わし」になり、
 
あの火葬場のことも今は昔、語るものもなく・・・。
飲み相手は娘のみ。
 
久方ぶりに、くしくも今世の感染症で
戦々恐々世界で弔いも出来ず、
火葬にされる報に思い出したのである。
 
今も山にあがる。
もうキノコは見当たらない。
あれだけはえていたキノコどこいったろう。
もうはえなくなってしまったんだろうか。
夢の中だけでしか見れないのだろうか。
 
人が山に入らない。
山が荒れ、杉松ばかりの山。
木は倒れ、竹がはびこり・・・。
 
ああ、でも待てよ・・・。
 
もう何百年も経って、
皆が行かないところにいつの間にか生えていた、
坊主が見つけたキノコのお城。
わしも確かに見たではないか。
 
同じすがたでなくても、きっと。
いつかまたキノコのお城を見つけたい。
 
それは、喜びの思い出。
 
「おじいちゃん!!早く来て!!キノコ見つけた!!」
庭でみつけたアミガサタケ。
 
遠くでばあちゃんになった僕のお嫁さん。
「わー!ダメよ!!!!!知らないキノコにさわっちゃダメ!!」
と。
 
フッフッフッ。
それは食べられるキノコだよ、
ばあちゃん。
 

腕時計


 
本当に語りたかったのはキノコのことではない。

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