今からでも全然遅くない 『The Band』 THE BAND
ザ・バンドはカナダ人4人とアメリカ人1人の5人組で、ロニー・ホーキンスやボブ・ディランとの活動を経て1968年にデビューしています。
デビューまでの間だけでも相当なエピソードがあるザ・バンドですが、1stアルバム『Music From Big Pink』は高い評価を受け、多くの(信じられないほど有名な)ミュージシャン達に大きな影響を与えたとされています。
当時の貴重な情報源だったFM雑誌の名盤企画でも、ザ・バンドのアルバムはよく取り上げられており、ジャケットも印象的だったのが2ndとなる『The Band』(通称ブラウン・アルバム)でした。
私が洋楽に傾倒し始めた頃、ロビー・ロバートソンは1stソロアルバムをリリースしており、そこに参加していたU2を目当てにアルバムを聴いた私は、その人こそがザ・バンドのギタリストだったことを知ります。
私はその後もロビーのソロ・アルバムはリリースされる度に愛聴していたのですが、ザ・バンドを聴いたのはかなり後になってからでした。以前にも書いたことがあるのですが、私にとって「なぜ俺はあんな無駄な時間を…」(by 三井寿「スラムダンク」)の極みと言えるのがザ・バンドです。
そんな私の経験から、もし「まだザ・バンドを聴いていない」、もしくは「興味はあるけど、いまさらザ・バンドってこともないだろう」、「ここまで聴かずに来たのだからもういいや」という方(←私がそうでした)がいらっしゃれば、(たいそうなタイトルをつけておきながら拙文ではありますが)決して遅くはありませんと僭越ながらお伝えしたいのです。
「そういう趣旨なら1stを勧めるのが筋じゃないか」とも考えたのですが、2ndアルバムとなる『The Band』は1stにおけるスタジオでの録音と違い、多くの曲が邸宅を借りてレコーディングされていることから、よりこのバンドの本質に近いものが聴けるような気がするのと、単純に私の好みから本作を軸にザ・バンドをお勧めしてまいります。
5人組であるザ・バンドは、ヴォーカルが3人居て、曲ごとにリード・ヴォーカルはいるものの、そのことよりもパートごとに最も向いているであろう人が担当する、あるいは複数で歌うことを厭わないバンドです。
担当楽器はロビー・ロバートソンがギターと決まっているくらいで、リヴォン・ヘルムはドラムではありながらリード・ヴォーカルを担当するうえにマンドリンを弾きますし、リチャード・マニュエルは鍵盤を担当しつつもその哀愁漂う歌声が素晴らしく、ザ・バンドのメイン・ヴォーカルといって良さそうな人ですが、ドラムも叩いています。
ベースのリック・ダンコもリード・ヴォーカルを取り、フィドルも弾いたりしています。そしてガース・ハドソンはもうひとりの鍵盤(オルガン)という以上の存在であり、その謙虚な人柄から自らの功績を語ることが少ないようですが、他のメンバーの話を読む限りこのバンドの音楽性に大きな影響を与えていたのは間違いなさそうです。ライブ盤『Rock Of Ages』での存在感、エグすぎる。
後追いの私がここまでの情報を知ってまず驚いたのは、ロビー・ロバートソンが歌っていないことでした。彼のソロ・アルバムから入っている私にとってロビーは歌っていて当然だったので、バンドでは純粋にギタリスト/コンポーザーだったのには驚きました。
そして、他メンバーのマルチ・インストゥルメンタルぶりに驚きましたし、自分の領域(担当楽器)にこだわらず、その曲、そのパートによって最も良いものを選択する姿勢にもっと驚きました。
The Band とは随分と振りかぶったバンド名だなと思っていましたが、名は体を表すごもっともなバンド名であることを知ったのです。
そんな5人の協働体制が最もよく現れている(←私の感想です)のが本作だと思いますし、ここで聴けるのは最高のアンサンブルです。
収録されている曲はどれも素晴らしいですが、私が特に好きなのは ⑼ Look Out Cleveland、⑾ Unfaithful Servant です。どちらもリック・ダンコがリード・ヴォーカルとなっているのですが、タイプの違う2つの曲がたまりません。高揚感あふれるオープニングの ⑼ におけるバンドの雰囲気は最高ですし、リックがリチャード・マニュエルとは違った哀愁を聴かせてくれる ⑾ が好きすぎます。もし気に入った方は『Rock Of Ages』収録の“Unfaithful Servant”もぜひ。歌唱はもちろん、ロビーのギター・ソロが輪をかけて素晴らしいです。
そして言うまでもなく、レヴォン・ヘルムが歌う ⑶ The Night They Drove Old Dixies Downはバンドを代表する名曲で思わず合唱してしまいますし、リチャードの歌う ⑹ Whispering Pines はあまりにも美しすぎます。
後にアメリカーナとも称される、様々な要素を取り入れつつ5人を通して奏でられる音楽は本当に豊かで、いつ何時聴き始めても最後までスキップすることなく聴けてしまう、不思議な魅力を持っています。飽きることがないのです。
ジャケットの5人は随分と貫禄がありますが、この頃はまだ20代後半のはず。どうやってこんなものを作り上げたのか想像もつきませんが、プロデューサーのジョン・サイモンによるところも大きいのでしょう。6人目のメンバーになれなかったのは残念でしたが、その功績が忘れられることはないはずです。
2019年にはリミックスが発売され、その違い(←実際、結構な違いがあります)を楽しむ記事やブログを読ませていただいたりもしていますが、聴き始めてしまえばそこにあるのは素晴らしい曲と演奏で、これまでと同じように「いい音楽だなー」と心を打たれることの繰り返しです。
『Music From Big Pink』には “The Weight” や “I Shall Be Released” がありますし、『Northern Lights – Southern Cross』には “It Makes No Difference” もありますから、「ブラウン・アルバムさえ聴いておけばよい」ということではないのですが、後からザ・バンドの良さを知った私がおすすめしたいのは本作になります。
ザ・バンドを聴き始めるのは遅くなってしまいましたが、決して遅すぎることはありませんでした。