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ことの次第がわかるまでに時間がかかってしまった 『Robbie Robertson』 ROBBIE ROBERTSON

元ザ・バンドのギタリスト、ロビー・ロバートソンが最初のソロアルバムとして『Robbie Robertson』をリリースしたのは1987年。U2が世界を制覇しつつあった頃になります。

ザ・バンドもロビー・ロバートソンも知らなかった私が本作をCDレンタルしたのは、そんなU2が2曲も参加しているという情報を得たからでした。いろんな意味で神がかっていた『The Joshua Tree』(1987年)に夢中になってしばらく経った頃、私は「ロビーが誰だか知らないが、聴かずにはいられない」と思ったのです。

確かにU2は本作の ⑷ Sweet Fire Of Love と ⑼ Testimony で参加しており、ボノの声とバンドの音(特にラリーのドラムがカッコ良すぎる)を聴くことが出来ました。


最初はこの2曲を繰り返していたのですが、そのうちに ⑴ Fallen Angel や ⑶ Broken Arrows の美しさに気がついて、ロビー本人に興味を持つようになります。

ロビーがいたというザ・バンドについては、FM雑誌の名盤企画で2ndアルバムが取り上げられているのを見かけており、そこのギタリストだった事を知りました。そうすると、⑸ American Roulette 、⑺ Hell's Half Acre のギターがカッコよく聴こえてくるようになりました。

本作のドラムにはマヌ・カッチェとテリー・ボジオ、ベースにはトニー・レヴィンが参加していたこともあってか、全体を通して音の美しい、深みのある音楽だなーとは感じていました。

当時は自宅にBOSEスピーカーの501Zが届いたばかりだったこともあって、他のアルバムにはない低音の響きにも圧倒されていました。(のちにダニエル・ラノワがプロデュースしている事を知り、U2やピーター・ガブリエルが参加していることも含めて合点がいきました)

ロビーを気に入った私は2ndソロアルバム『Storyville』(1991年)、ネイティブ・アメリカンの伝統音楽に影響を受けた2枚と、続けてリリースされたソロアルバムを聴いていましたが、それでもザ・バンドを後追いすることはないままでした。

しかしながらある時、おそらく何かのロック名盤特集でザ・バンドのアルバムが数枚取り上げられているのを見て、「そういえば結構ロビーを聴いているのに、ザ・バンドを聴いてないな」とレンタル店へ向かうのです。

今考えると、ここまでなんと時間を無駄に過ごしていたことか…。

ザ・バンドの1stと2ndを借りた私は、すぐにはその価値がわからずとも繰り返し聴くことで「ジャンルで括れない様々な要素があって、ヴォーカルも1人じゃないのに、何と調和の取れた音楽なのか!」と、やっとザ・バンドの凄さに触れることができます。

のちに調べるとヴォーカルは3人で、鍵盤も2人いて、楽器を持ち替えるのも有りなのを知り、「それなのにあんなに調和取れてるの?せーので演奏してる感じなのに凄すぎる! っていうか、ロビーって歌ってないのかよ⁈」と驚きます。

長らくロビーのソロ作だけを聴いていた私にとって、ギターはもちろん、歌っているのは当たり前だったのですが、ロビーが歌っていたのは1stの ⑵ To Kingdom Come だけだったのです。

この2枚は1960年代にリリースされているわけですから、名盤特集のたびに登場する理由をやっと理解して、営業車の中で本当によく聴くようになりました。飽きないのです。

あとは残りのアルバムを借りるだけ。『Islands』まで揃っているありがたいレンタル店があり、その中でも『Northern Lights - Southern Cross』を繰り返し聴くようになります。現在は『Cahoots』までリミックス盤が出ていますが、次に『南十字星』のリミックスが出たら買います。

本当に恥ずかしいのですが、つまりザ・バンドを聴いたのはここ10年くらいのことなのです。再びの「俺はなぜあんな無駄な時間を…」(by 三井寿)です。

今では主夫時間を利用して、図書館にあったリヴォン・ヘルムの自伝や全曲解説(五十嵐正氏)を借りて、取り返すようにザ・バンドを学ぶ日々です。

ここまで来て、やっと1stソロアルバム収録の Fallen Angel に書かれている “For Richard Manuel” を本当の意味で理解できるようになります。

ロビーの冒頭の歌い方もリチャードを意識してるように聴こえてきますし、本作にリック・ダンコとガース・ハドソンが参加している意味と、リヴォン・ヘルムが参加していない意味を知ることにもなります。正直、それまでは「嫌いじゃない」程度だった ⑻ Sonny Got Caught In The Moonlight も、リックの声がわかるようになってからはグッとくるようになりました。

最初にCDを借りた日から30年を超える時を経て、やっと本作の “ことの次第” を知るわけです。まったくもってお恥ずかしい。何も知らずにU2が理由で聴き始めた頃の思い出と共に、心にじ〜んとくるアルバムになりました。

『The Last Waltz』のリリースは1978年。『Robbie Robertson』まで10年近くかかったわけですから、当時のファンは待ちに待ったという感じだったでしょうし、ザ・バンドからの流れを理解した上で本作を迎えた先人達が羨ましいです。

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