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脱炭素社会に向けた世界、社会の動きと木造化・木質化

脱炭素とは、地球温暖化の原因となる代表的な温室効果ガスである二酸化炭素の排出量をゼロにしようという取り組みのことです。 
 
また、二酸化炭素排出が実質ゼロになった社会が「脱炭素社会」です。 
 
脱炭素の流れはあえて大きく分けると、
・化石燃料から再生可能エネルギーに切り替える川上の部分
・エネルギー消費を抑制しようという川下の動き
に分かれます。
 
欧州で先行している建築物への環境規制や導入が検討されている政策は、建築物の省エネ性能を高めることを目的としており、川下の部分に当たります。
 

地政学リスクの高まりに応じたエネルギー安全保障のための脱炭素


当初は気候変動対策としての脱炭素が基軸でしたが、地政学リスクが急速に高まる中、エネルギー安全保障のための脱炭素に重心が移りつつあります。
 
「電力自給率向上」、「電源多様化」、「省エネ推進」が主な方針です。

・「電力自給率向上」:再生エネルギー開発促進、さらなる規制緩和、再生エネルギー電力を無駄にしないための蓄電池・送電網整備の加速という形で進むことが予想されます。
 
・「電源多様化」:原子力発電や石炭火力発電の温存を選択肢とする可能性もあります。
 
・「省エネ推進」:エネルギーをロスしない守りの省エネから、再エネ導入拡大時に電力の需給バランスを保つための積極的な省エネが求められるようになります。
 
 
 

脱炭素社会に向けて木造化・木質化が効果的な理由

日本は先進国の中でも有数の森林国で、国土の森林率は約67%です。

日本の山には豊富な森林資源が育っており、大規模木造は豊富な国産材の需要の受け皿になります。

日本の森林面積は国土の3分の2に及び、森林率は経済協力開発機構(OECD)加盟37カ国で3番目に高い国です(2020年)。
 
そこで輸入材が厳しいなら国産材でとばかりに、国産材に注目が集まっています。
 
ところが、国産材への切り替えはスムーズに行われていません。
 
日本の森林は戦中・戦後に大量伐採されて荒廃しましたが、その後の植林で森林面積は年々増加しています。

森林の4割を占める人工林は、いまや本格的な利用期を迎えています。
 
しかし森林が育つまで半世紀にわたって木材を輸入に頼ったため、木材の自給率は減少の一途をたどりました。

底は2002年の18.8%です。

以降徐々に回復し、2019年の自給率は37.8%となりました。
 
輸入材への依存は国内林業の産業化を遅らせました。

林業従事者も長期にわたって減少し続けました。適切に管理されていない森林も目立つようになりました。
 
そのような状況の中では、国産材の供給を急に増やすような対応はできません。

その結果、地域差はあるものの、輸入材に続き国産材でも木材不足や価格高騰を招いています。
 
木材を山から出すには、行政手続き、機材や人員の手当てなどの手間やコストが発生します。

そして国産材の価格が輸入材を下回らないと売れません。

価格の変動が起きてしまうリスクを常に抱えているので、積極的に投資ができないのが実情です。
 
林業が盛んに営まれていた時代は、山間地域に多くの人が暮らしていました。

農業をはじめとする他の仕事を主業としていても、山仕事に慣れている人が多くいました。
 
しかし、外圧に押されて国産材の需要が減少し、林業が長期にわたって低迷する中で、山間地域の社会の疲弊が進み、そうした即戦力になる人材はほとんどいなくなってしまいました。
 
今の林業には、正規で働いている人がほとんどで、繁忙期に人を集める対応ができないので、急な増産などには対応できないのです。
 
 
 
 

脱炭素社会における木造化・木質化の重要性

国産材に注目が集まっている今は、林業を成長産業にする絶好の機会ともいえます。
 
森林大国の日本は、何といっても木材の供給地と需要地が近いです。

トラックで数時間で運べる地域の経済圏を生かさない手はありません。
 
その実現のためには、地域ごとの林業や製材工場、木材販売会社、住宅会社などが信頼関係を築くことが欠かせません。

住宅・建築業界が安定して需要をつくり、林業界や木材業界がそれに応えて安定供給で支える構図です。
 
森林は二酸化炭素を吸収し、森林からつくり出される木材は燃やさない限り炭素を貯蔵し続けます。
 
日本は2050年のカーボンニュートラル(温暖化ガス排出実質ゼロ)、2030年度までに2013年度比で46%削減する目標を打ち出しています。
 
森林と木材の果たす役割は大きいです。国産材には輸入材の単なる代替ではなく、未来につながる価値を持たせる必要があります。
 
消費者も企業も、家計や事業活動につながる施策には注目します。

木材を強く経済につなげるカーボンプライシング等は、無関心層が木材利用に興味を持つきっかけになる可能性があります。
 
身近に木材がない環境で育つと、木に対する愛着や意識は生まれませんし、材料への関心は持てません。

特に非住宅建築に木材を使う取り組みの意味は大きいです。
 
木材活用の意義や方法を発注者に発信し、カーボンニュートラル実現の大きな目標に向かって取り組みを進めていくことが求められています。



まとめ

日本は先進国でも有数の森林保有国でありながら、木材自給率が低く、生産体制が脆弱であるため、輸入材の不足分を補えず、ウッドショックのような混乱に弱いです。
 
将来的には、木造住宅や中・大規模木造で用いる梁材や柱材などの部材を、国産材を使って安定価格で安定供給できる体制の構築こそが、ウッドショックのような木材供給リスクの再発防止のためには欠かせません。
 
木材の価値を正しく理解してもらうには、木を適切に管理して美しい状態で使い続ける取り組みが必要です。

木材に触れる機会が減る一方で、森林資源の充実で素材に適した太い木が増えています。

構造材として木材を使うことも大事ですが、インテリアを木質化し、板として木材を使うことで、多くの人々に木の良さを実感してもらう環境づくりも重要です。
 
特に低層建築物である店舗、事務所、倉庫、幼児施設、高齢者施設等の非住宅建築を、より積極的に木造化を図っていくことが重要になります。



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