運送契約における損害賠償の考え方

損害賠償責任条項に修正を加える場合、どのように相手方に説明すればいいでしょうか。
単に法律(民法416条)どおりとするのが公平と考えて「相手方に損害を生じさせた場合には、その損害を賠償する。」とすれば当社のリスクを回避したことになるでしょうか。
この点については、民法が一般法なので、特別法である商法や物流に関する業法を理解しないと”法律どおり”に修正できないはずです。そこで、運送業における損害賠償の考え方を整理したいと思います。

◆項目◆
1.民法の定め
2.商法の定め
3.標準運送約款の定め
4.契約書の修正方法

1.民法の定め
民法416条第1項では、通常生ずべき損害の賠償を、第2項では、特別の事情によって生じた損害であっても、当事者が特別事情を予見すべきであったときは、その特別事情によって生じた賠償を賠償請求することができる、と規定されております。

2.商法の定め
続いて商法の定めですが、以下のとおりになります。
(1)商法の規定

第575条 運送人は、運送品の受取から引渡しまでの間にその運送品が滅失  
    し若しくは損傷し、若しくはその滅失若しくは損傷の原因が生じ、 
    又は運送品が延着したときは、これによって生じた損害を賠償する
    責任を負う。
第576条 
 ① 運送品の滅失又は損傷の場合における損害賠償の額は、その引渡しが  
  されるべき地及び時における運送品の市場価格
(取引所の相場がある物 
  品については、その相場)によって定める。ただし、市場価格がないと
  きは、その地及び時における同種類で同一の品質の物品の正常な価格に
  よって定める。
 ③ 前二項の規定は、運送人の故意又は重大な過失によって運送品の滅失  
  又は損傷が生じたときは、適用しない。
(2)商法の規定から分かる民法の修正
この修正の意味は、運送業の特色に基づきます。
ご存じのとおり、日本における運送サービスの運送賃はかなり安い価格で、ほぼ100%確実に配達されるという非常に優秀なシステムを構築しています(近年値上がりという事情があるとはいえ)。そのシステムの中で、運送業者は大量の貨物を指定された日までに配達しなければなりません。
そのような負担を運送業者に負っている中で、貨物が滅失・毀損してしまったときに、特別事情に基づく損害(例えば、貨物の転売利益)まで賠償額の範囲に含まれるとすると、運送業は現在のシステムのまま運送サービスを提供できず、運送賃を大幅に値上げし、損害賠償責任を追及されたときに備えていかなければなりません。
商法はこのような運送業の特殊性を考慮し、損害賠償"額"の範囲(どういう損害-通常損害までか、特別損害まで含むのか。)を修正しています。
つまり、商法が言う「その引渡しがされるべき地及び時における運送品の市場価格」というのは、特別事情に基づく損害(転売利益など)を含まない価格を意味するということです。
なお、商法576条第3項は、運送人に故意・重過失があった場合には、このような修正は適用しないと定めているため、一切の損害を賠償することになります。

3.標準運送約款の定め
(1)標準運送約款の規定
第47条 貨物に全部滅失があった場合の損害賠償の額は、その引渡しがされ  
   るべき地及び時における貨物の価額によって、これを定めます。
(2)標準運送約款の規定から分かる民法の修正
標準運送約款とは、運送人と荷主との間で運送契約の内容を定めたものであり、多数の荷送人との間での法律関係を画一的、迅速に処理することを目的としたものです(貨物自動車運送事業法第10条1項に根拠があります。)。
この標準運送約款でも商法576条第1項と同内容の記載をしており、このように損害賠償額の範囲を限定している背景事情は前記2(2)に記載のとおりとなります。

4.契約書の修正方法
ここまで見てきたように、損害賠償額の範囲が原則(民法)と比べて運送事業者に有利な形で修正されているのは、運送業の特殊性からだということが分かりました。
そのため、荷主から法律(民法)どおりに損害賠償条項を定めさせてくださいと言われたとしても、それは運送業界の事情を踏まえると、簡単に承諾できなさそうです。
まずは、荷主に運送業というものが民法の原則がそのままの形で妥当しないことを丁寧に説明し、ご理解いただくことから始める必要がありそうです。また、通常損害・特別事情に基づく損害という言葉を使ってきましたが、その内容は一義的に決まるわけではありません(○○費=通常損害、■■費=特別事情に基づく損害と常に言えるわけではないということ)。
場合によっては、通常損害や特別事情に基づく損害の中身を具体的に明記することで両当事者との間に齟齬が生じないようにしておくことも必要になりそうです。

※この記事に記載した内容は、私が、仕事をしながら、または私的に勉強して理解していることを記載しました。私の所属している会社等の見解とは一切関係がございません。
 もし、ご意見等ございましたら、コメントいただければ幸いです。今よりももっと理解を深めていければと思いますので、何卒よろしくお願い申し上げます。

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