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時をかけるおじさん 15/ 閑話休題

めずらしく、今日の話をしましょう。

いろんな嵐から早半年ほど経ったのだな。そして、少しずつ、私にも心の余裕が出てきたのかもしれない。
久しぶりに父と外出をした。私がスケッチなどをしたかった都合もあって、やや遠出して、大きめの公園まで。

母は抗がん剤の点滴をしたばかりの時期で、外出する元気はない。それよりもおそらく父を家から連れ出すほうがのびのびと過ごせるかなという思いも多少あった。

公園まではタクシーでいこうと決めていたけど、せめて迎車代をおさえようと思ったら結局十五分以上歩く羽目に。
遠出は久しぶりなはずの父は、はじめはそれなりに歩きつつも、少しずつ前のめりな歩き方になってしまう。
足が進むから体が前にどんどんいってしまう、というような姿勢になっていった。なんとかタクシーを拾えるところまで到達し、公園へ。

そこからは少しベンチに座ったり休憩所に行ったりしているうちに回復してきたようす。池のほとりをぐるっと歩きつつ、私はスケッチしたり写真を撮ったり忙しくしているが、父はといえばベンチに座ってぼうっとしたり、鳥をながめたり、子供を微笑ましく見ていたり。そういうゆったりした過ごし方が好きなんだよなーこのひとは。特に病気を経て、年をとって、そうなったんだ。それはある意味では、とても楽しいし良かったことだと思う。
道中、母を連れて来たかったというつぶやきと、この近辺に親戚が住んでいた、という話を何度も繰り返していた。
私はそれよりも、めずらしい鳥や木など目の前に見えたもの、音、そんな話をしていたほうが気持ちが楽だった。

帰り道、近辺で夕飯を食べた。おなかはすいていたのであっという間にぺろりとたいらげたが、さんざん歩き回ってから座って、ご飯を食べてほっとしたのか、急に疲れが出た様子の父。なんとなくリアクションが遅くなり、ぼうっとしている雰囲気になった。

気分でも悪くなったのかと心配になったが、そういう様子ではなかった。でも少し顔は赤くなっていたし、自覚はないがやや疲れのピークに達していたのであろう。夕飯を食べ終わり、最寄り駅から自宅まではタクシーを使う予定だったが、タクシーを拾いやすい駅はどの駅だろう、と少し迷いが生じた。

「●●駅と××駅、どっちがタクシー拾いやすいかな?」と、車を乗り回していた時代の父が目を覚まさないかと思って相談してみた。
するとモニャモニャとした返事が返ってきて、

「タクシーは、、あれじゃない。拾えるんじゃない、手を、挙げれば…」


……うん。


そだねー



帰りは完全にガス欠気味だった父は、現在住んでいる家ではなく、ずっと幼少期に住んでいた家のほうに向かおうとしていた。
なんとか家にたどり着いた途端、「●●さん(伯母、父の姉)は2階にいるのかな?」とたずねた。もちろん叔母が同居していたのは幼少期住んでいた家であって、もう同居していない。心が幼少期に帰っているのだった。

まあ今日も1日、お疲れ様でした。


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