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2022年の谷川の仕事を振り返る

2022年の年の瀬にこんにちは。京都市在住の哲学者、谷川です。
年の瀬の「瀬」っていい表現ですね。少し早く流れる水音が聴こえるみたいです。

2022年の仕事を振り返ります。ジャンル分けも難しいし、例年通り月ごとにまとめます。

がっつり学術的かつ研究成果にアクセスしてもらいづらいものは、割愛しています(リサーチマップをみて)。
思い出せなかった仕事も多い気がします。(体感的には、やった仕事の2, 3割くらいは書けてない感じします)

それに、非公開の仕事はもちろん、セミクローズドなイベントも相当数記載していません。


1月

【論説】「コンテンツの内と外は不可分に:異世界系ウェブ小説と「透明な言葉」の時代」(『中央公論』2022年2月号)

上のリンクは、元記事の一部分だけですが、雰囲気はわかります。文化研究みたいなものですね。

1月8日発売の『中央公論』掲載の記事。これはとても話題になりました。朝日新聞と(塚越健司さんによる「今月の3点」、そして取材記事の2回)、NHKラジオ「三宅民夫のマイあさ!」で取り上げられました。

あと、荒木博行さんのvoicyですね。


2月

【取材】「#論壇 『透明な言葉』求める現代社会」(朝日新聞, 2月17日)

この月は少ないですが、来月以降から忙しくなってきて……


3月

>【翻訳】マーティン・ハマーズリー『質的社会調査のジレンマ:ハーバート・ブルーマーとシカゴ社会学の伝統』(勁草書房)、上下巻

「主観的な人間経験の科学」は可能か? プラグマティズム哲学までさかのぼり、ブルーマー理論を徹底的に再構築する質的調査の系譜学——岸政彦
帯文より

書評も、以下の2本掲載されました。

①吉原直樹「あるべき社会調査の方法とは:真に待ち望まれた、時宜に適った作品」(「週刊読書人」2022/6/17号掲載)
②桑原司「哲学と社会学を架橋する:ハーバート・ブルーマーを科学哲学として読む」(「図書新聞」2022/7/9号掲載)

勁草の売れ行きランキングにも何ヶ月か載っていたので、悪くはないんでしょうね。せっかく出したからには、売れていてほしい……。

>【英語書籍】Neon Genesis Evangelion and Philosophy: That Syncing Feeling, (Open Universe)

いわゆる分担執筆で、日本の書き手も私以外にも2人いました。こちらは、後述の通り、魅力的なイベントへと化けていきます。

>【論文】「デジタルゲームから考えるコンテンツツーリズムの教育性:記憶の参照、積層する記憶、確認とズレ」(『コンテンツ文化史研究』13号)

2022年は、ファッキン忙しいことがわかっていたので論文投稿を意識的にやめていたため(私が猛烈に書いていた頃は、最大でジャンル違い含めて6本くらい通していた気がします)、これが唯一の論文掲載です。

オープンアクセスではないので、関心がある方がいればデータでお送りします。

>【研究発表】「来るべき消費の快楽のために:『ロスト欲望社会』を読む」(消費社会論研究会)

『ロスト欲望社会』(勁草書房)の書評会でした。上のURLから発表に使った資料が見られます。読んでいないとわからないとは思いますが。


4月

(一年前の)4月は、保護猫しおんを引き取った月です!

かわいいオブかわいいですね。優勝!

ちなみに、荒木さんのvoicyに三回かけて出ています。その1その2その3です。

はい、4月は以上!


5月

>【イベント】谷川嘉浩×杉谷和哉×朱喜哲「エビデンスって食べられますか?:研究と社会のままならない関係」『質的社会調査のジレンマ』記念(B&B, オンライン)

こちらは文字通り。質的/量的調査ってそもそも何なんみたいなところから入って、結構込み入った話まで、かみ砕きながら議論出来ました。好評だったのをよく覚えています。


6月

【イベント】谷川嘉浩×岸政彦「人間の主観的経験を聞き、書く理論をめぐって:『質的社会調査のジレンマ』刊行記念対談」(GACCOH)

翻訳本に帯文を書いてくださった岸さんとの対談でした。対面とオンラインのハイブリット開催になったのは、この辺りからだった気がします。感染拡大について相当に警戒しながら、イベントを待ち望んでいました。

アーカイヴも購入可能だそうです。


>【企画】「エヴァンゲリオンから哲学する──『Neon Genesis Evangelion and Philosophy』刊行記念連続対談」(GACCOH)

3月のところに書いた英語書籍にかこつけて、同書の日本からの執筆者である難波優輝さん、佐野泰之さんと声を掛け合って、連続対談イベントを開くことにしました。

6月12日が難波さん、8月1日が私(谷川)、8月17日が佐野さんがホストとなった対談でした。(難波さんの回のアーカイヴも買えるようです)


>【展示】「7cm」(tanye exhibition #0)

デザイナーたちとやっているユニットtanye(タンイ)で、6月末から7月上旬にかけて大阪でグループ展「7cm」をやっていました。


7月

>【取材】「プラグマティズムと非合理な情熱。学びの果ての衝動。哲学者・谷川嘉浩氏インタビュー。」(Less is more. by Infomart)

2度目の取材です(1度目の取材リンクも上記ページにあります)。楽しかった。


>【取材】「エヴァンゲリオンから哲学すると 京都で若手研究者らトークセッション」(京都新聞, 7月21日)

ちなみに、7月24日は私の誕生日! 祝ってくれた方々、ありがとうございました。


8月

>【イベント】谷川嘉浩×小川公代「孤独、弱さ、ケア」(「エヴァンゲリオンから哲学する」第二回, GACCOH)

「新世紀エヴァンゲリオン」では、使徒からの撤退戦を演じている世界が描かれます。数限られた都市に色々な人々が集まり、肩を寄せ合って暮らさざるをえない世界です。
都市というと開かれた印象がありますが、「エヴァ」は、身を守るために「壁」で区切られた世界を描くことも珍しくありません(学校、船、基地、要塞、エヴァもまた区切られた世界でしょう)。これは言うまでもなく、都市に生きる人々が抱える、消すことのできない寂しさや不安、恐れから逃れるためのものです。
でも、「壁」は不安な気分を消してくれません。結局、不安や寂しさをうまく処理できず、他者に攻撃的になったり、依存的になったり、自暴自棄になったり、色々なものから逃避したりしてしまう。A.T.フィールドという心の「壁」も同じです。
不安や寂しさを感じている都市を生きる現代人は、こうした拭いがたい「弱さ」とどう向き合えばいいのでしょうか。
イベント概要より


9月

いよいよ来ました出版ラッシュ。

>【書籍】『鶴見俊輔の言葉と倫理:想像力、大衆文化、プラグマティズム』(人文書院)

哲学と市民運動をまたぎ、戦後日本に巨大な足跡を残した鶴見俊輔。しかし、その平明な語り口とは裏腹に、思想の本質は捉えがたく、謎に包まれている。鶴見は今も読まれるべきなのか、もちろんそうだ。残された膨大な言葉の数々に分け入り、単純化を避けつつ独自の視点から思想の可能性をつかみ出し、現代の倫理として編み直す。鶴見俊輔生誕100年、気鋭の哲学者によりついに書かれた決定的論考。

「鶴見俊輔の哲学に価値があるのだとすれば――私はあると思うが――、彼の言葉を、そんなよそよそしい位置に放っておかずに、深く、適切に読み解くことで、彼の知的遺産をきちんと相続した方がいい。私が本書で試みるのは、彼の言葉を深く解釈し、現代の私たちが生きうる倫理へと再編集することであり、その仕事を通じて、彼の哲学を知的遺産として批判的に継承することだ。まともに読み解くことなしに、鶴見の言葉を、私たちの時代の経験に変えることはできない。」(本書より)
商品説明文より

こちら、今のところ3つ書評が出ています。特に森さんの書評はとても心強かったです。

①三宅香帆「【本棚を探索】第38回『鶴見俊輔の言葉と倫理』谷川嘉浩著 大思想家の業績を探る」(労働新聞社 2022.10.20)
②黒川創「『鶴見俊輔の言葉と倫理』谷川嘉浩著 言葉を基に迫る哲学の核心」(日経新聞 2022.10.22)
③森元斎「『私』のアナキズム:活動家・編集者としての鶴見俊輔に迫る」(週刊読書人 2022.10.28)

こちら、12月に増刷が決まりましたが、初版の誤字等については出版社ページをご覧ください。


>【取材】「鶴見俊輔生誕100年 不良学者のまいた種:厳密さより緩さ 学問の枠越え」(京都新聞, 9月14日)


10月

>【イベント】「谷川嘉浩さん『鶴見俊輔の言葉と倫理』刊行記念トークイベント」(イチジョウジ大学, 大垣書店高野店)

あと、来年に出るはずの翻訳で白目になりながら、デザイン基礎(授業科目)のために尽くしていた気がします(うろ覚え…)


11月

>【書籍】『スマホ時代の哲学:失われた孤独をめぐる冒険』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

デザイナーの佐藤亜沙美さん、本当に安心して仕事を任せられました。最高。
いろいろ行き届いた仕方で協力してくれた編集さんにも感謝しかないな、という記憶の深く刻まれた、2022年の秋でした。お二人とまた仕事がしたい。

「SPY×FAMILY」第二期のOPアニメーションのよさをかみしめながら出版を迎えました。

いいなと思った感想を2つほど挙げておきます。


>【寄稿】「「プラグマティズム」から考える仮説的思考、あるいは哲学の魔法|哲学者・谷川嘉浩」(Desilo, 11月9日)

世界は、何か「答え」を求めてしまえば解決するような謎でできているわけではない。[…]私たちが求めるべきなのは、「答え」ではなく、「仮説」だからだ。世界は仮説でできている。
https://desilo.substack.com/p/yoshihro-tanigawa-pragmatism

デサイロというプロジェクトに、プラグマティズム(実験主義)の基本的な発想について寄稿しました。


株式会社カインズでの講演などもした。キーワードは「DIY Philosophy」。


12月

>【イベント】「デザインとは何なのか、クリエイティブな視点があると何がどううれしいのか」(嵯峨野高校, 12月13日)

SPY×FAMILYの一期EDとSPY×FAMILYの二期OPのアニメーションが、いかなる点でよくできている映像だと評価できるのかというのを、嵯峨野高校の美術部等の学生さんたちと検討してきました。
https://twitter.com/houkago_kitsune/status/1602585552049516544

URLも何もないですが、こういう内容です。高校で話してきました。


荒木博行さんのvoicyに登場。今年二度目かな。


>【イベント】三木那由他×谷川嘉浩「モヤモヤする夜のための哲学:『会話を哲学する』『鶴見俊輔の言葉と倫理』刊行記念対談」(ソーシャルディア, 12月11日)

三木那由他さんとは2021年にも対談しました。2年目です。ゆるく話しているだけなんですが、割と自分のポジショナリティを問われる瞬間があって、私個人は相当ハッとしたり、焦ったりしています。

いつも(対談は2度目ですが)、三木さんの言葉がずっと宿題のように頭に残っているんですよね。普通に話しているだけなのに、むちゃくちゃ反省させられるというか、自分の甘さを意識させられます。

今回は、幽遊白書の魅由鬼(みゆき)というキャラクターの話が特に引っ掛かりとして、宿題として残っています(参考)。この話は、ずっと思い出すだろうなと思います。

ただ、もっと人種や宗教の話もできたらよかったなとは思った。2022年の大事なテーマのひとつだったので(いつでもそうだけど)。

あと、倉津拓也さんと、スペースで『小説トリッパー』掲載の二つの書評(三宅香帆さんの『砂漠と異人』論、スケザネさんの『君のクイズ』論)をめぐって、2時間半しゃべり尽くすというイベントもありました。




今年読んだ本や漫画の数

はい、そんな一年です。

翻訳(単訳)を含めると、単著書籍が4冊でました。出した本は合計で、5冊。

読了書籍(非専門書)は、年末までわからないとはいえ、325冊。
今年読んだ漫画は、820冊
インプットにアウトプットがおいつかないので、どなたか谷川に書く機会をください!
漫画とか小説とかビジネス書とか、浴びるほど取り入れていても出て行かないのが不均衡って感じがします。

『スマホ時代の哲学』と平野啓一郎と、坂元裕二脚本のドラマ「初恋の悪魔」で、文章を書いた!本の本文に収録すべきだというくらい、よく書けた気がする。来年どこかに載る。
https://twitter.com/houkago_kitsune/status/1608008307956158464
「哲学者なのに、京都市立芸術大学でゼミを持って、作品制作の指導しているというけど、結局何をしているの?」という疑問に答えるエッセイも書いたのですが、こちらも『スマホ時代の哲学』が少し関係していて、来年に公開されます。
https://twitter.com/houkago_kitsune/status/1608041938120474624

こんな文章も2023年には公開されます。


宣伝など

あと、来年2月に座談本が出ます。これが来年最初の出版関係の仕事だと思います。また次の書籍につながるように、超うれてほしい書籍です。

リスクや不確実性に満ちた社会を渡り歩くために、大半の人は余計な時間やコストをかけることを避け、身軽で即断即決のスッキリした生き方、悩みや疑いなどないスピード感ある生き方を追い求めています。そういう流れに抗して、私たちはこの本で「ネガティヴ・ケイパビリティ」の価値を訴えようとしています。本書の試みは、濁流の中に「よどみ」を作るような仕事だと言えるかもしれません。激しすぎる流れの中で、魚やその他の水生生物は暮らしを営むことができません。魚などが暮らしやすい環境には、「よどみ」があります。同じことが、人間の生態系にも言えるはずです。何事も変化し続ける社会において「よどみ」は、時代遅れで、回りくどく、無駄なものに見えますが、そういうものがなければ、私たちは自分の生活を紡ぐことに難しさを感じるものです。逆に言えば、この社会に「よどみ」が増えれば、前よりも少し過ごしやすくなります。
「はじめに」より


そしてそして、『スマホ時代の哲学』も、ぜひ買ってください。(もちろん、経済的な事情で難しい方は遠慮なく図書館でどうぞ)

出したからにはちゃんと届けたいし、この本の奥付を見ればわかるとおり、無数の人がこの本の成立に関わっているんですよね。やっぱり報いたいです。
Kindleもあるし、2023年にはAudibleも出るらしいので、お好きな媒体にて。


(ちょっとだけ)寄付のすすめ

最後に、関係のない話題を。「効果的利他主義」という考え方に、部分的に感銘を受け、ここ数年寄付を続けています。私の場合は収入の2%にすぎませんが、ルールとしてパーセントを決めて、それ以上の額を寄付することを自分に課しています。

規則を守るように自分に課すというのは、結構面白い体験ですよ。「さて、今年はどこに寄付しようか?」って思考になって、寄付先を探すのも楽しいです。
2022年は、Give Directly、Big Issue、ユニセフ、「トランスジェンダーのリアル」、Against Malaria Foundationなどに今年は寄付しました。ぜひみなさんも。


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