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教育だけでは不十分? シニア学生を増やすために絶対に必要な一つのこと。

社会人やシニアの学習意欲にどう応えるか、また学習意欲そのものをどう創出していくかは、これからの大学にとって真剣に向き合わなくてはいけない課題です。私は仕事のなかで、たくさんの社会人学生やシニア学生の取材やヒアリングをするのですが、シニア学生からはよく同じ悩みを聞きます。それは「せっかく学んでいるのに、学んだ成果を社会に還元するときがない」というもの。これに対して、明確な解決方法はないのですが、今回、見つけた記事は、ひとつのヒントになりそうです。

記事は60歳を越えた石井さんという社会人学生の方が、クラシックについての講義を聴いたことをきっかけに、自分でクラシック音楽のコンサートを企画してしまうというもの。学びをきっかけに社会活動をはじめるというのは、若い学生のなかにも、たくさんいるように思います。でも、社会経験を重ねたシニアや社会人の学生の方が、実際に何が必要なのか、またそれを実現するにはどうしたらいいのか、といった思考力や行動力が備わっているので、実現する確度が高く、スピードも早いのではないでしょうか。もちろん、若い学生はこれらが備わっていないからこそ、斬新なアイデアが生まれたりもするのかなとも思います。要は、どちらがいいというわけではなく、どちらもいいんです。

ただ、こういった活動の重要性は、若い学生よりシニア学生の方に高いように思います。理由は冒頭に書いた通りで、“学んだ成果を社会に還元する”というのは、若い学生なら放っておいてもできるけど、シニア学生にとってはとても難しいことだからです。記事に登場する石井さんは、独力でやり遂げましたが、すべてのシニア学生がこれをできるわけではありません。むしろ、めずらしいからこそ記事になっているわけです。

大学が“学びの成果を社会に還元する”仕組みをシニア学生に提供するというのは、言い方を変えるなら、大学が“学ぶための目的”をシニアに提供するということです。目的がなければ、そもそも意欲なんて湧きません。

現在、社会人進学をするシニアの動機は、純粋に何かしらの学問分野に興味がある、若い頃に行きたくても行けなかった大学に憧れがある、さらにこの両方の気持ちがある、大きくはこの3つに分けられるように感じています。しかし、大学進学率はずっと上がり続けており、“大学への憧れ”がある人というのは、間違いなく減っていきます。学問に興味がある人というのは、一定数い続けるでしょうが、大学以外でも学べるサービスが増えてきており、必ずしも大学を選ぶ必要性はなくなっていくでしょう。

では、こういう状況のなかで、大学がシニア学生を増やすにはどうしたらいいか。それは、大学が、大学でしかつくれない“学ぶための目的”を、学びとともにシニアに提供することしかないと思うんですね。インターネット等を使って、教育サービスを提供する企業は、今後も増えていきます。しかし、これら企業は、地域社会に根ざした知の拠点であったり、たくさんの企業と産学連携を行う研究機関であったり、世界と日本とをつなぐ教育プログラムといった、大学特有の広がりを持っているわけではありません。

大学は、いかにして学生に知識やスキルを獲得させるかについて、議論とトライ&エラーを繰り返してきました。これからは、いかにして(シニア)学生に知識やスキルを使わせるかについても、同じように労力と熱量をかけるべきです。それによくよく考えてみると、先ほど若い学生は放っておいても学びの成果を社会に還元する、と書きましたが、就職支援・キャリア支援というかたちで、めちゃくちゃサポートされていますね…。内容はまったく異なるでしょうが、シニア学生にも同じように卒業後の支援がいるのです。そして、この支援は、シニア学生の人生を豊かにするだけでなく、社会そのものをよりよく変えていくことにもつながります。そういう意味でも、営利目的の教育系企業ではなく、大学が取り組むべきことです。ぜひ本腰を入れて、たくさんの大学にチャレンジしてもらいたいものです。

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