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大学×”何か”で演出する新たな魅力。学術系イベントを社会に広げる、東大のチャレンジングな取り組みを考える。

大学の講演会やシンポジウムのなかには、参加してみると面白いものがたくさんあります。でもそうはいっても、こういった学術系イベントへの参加に二の足を踏む人が多いのは事実です。今回、見つけた東京大学のオンライン特別講義は、こういう学術系イベントの苦手意識を取りはらう、またとないきっかけになりそう。

……どうでしょうか。イベント名は、『オンライン特別講義シリーズ「東大吉本対話」vol.1 言葉力が世界を変える?~』。『笑う東大、学ぶ吉本プロジェクト』という、東大と吉本の共同プロジェクトの一環として開催されるようです。東大の研究者と吉本の芸人が対談するというのは、ほら面白いでしょ?ユニークでしょ?と無言の圧をかけられているような気持ちにもなるのですが、それでも悔しいことに、これは面白そうですし、ユニークです。

学術系のイベントの魅力を、とても平坦な言葉であらわすなら、知らないことを知れること、だと思います。一方、足が遠のく原因も同じで、知らないことを聞かされること、理解しなければいけないこと、これらに対しての苦手意識ではないでしょうか。

知っていることをわざわざ聞くために学術系イベントに参加する人はまずいないでしょうから、知的好奇心より知ることへの面倒くささが勝つ人を学術系イベントに誘い出すのって、なかなか至難の業だと思うんですね。そもそもこういう人をわざわざ引っ張ってくる必要はないのでは?と感じる人も多いでしょう。わたしも半分くらいそう思います。でももう半分では、苦手な人にこそ学術系イベントの魅力を知って欲しいし、そういう人に対してのアプローチができるようにならないと、学術系イベントは世に広がっていかないのでは、とも思うのです。

そうはいっても知的好奇心を単純にくすぐるような正攻法でイベントの魅力をいくら発信しても、こういう人たちの琴線に触れません。ならどうするのか?今回の東大×吉本というアプローチはその答えの一つなのかなという気がします。

東大と吉本という組み合わせの何よりの魅力は、イメージのギャップだと思うんですね。実際はともかく、テンプレートなイメージだけでいうと、研究者は“小難しくて賢い人”、芸人は“おもろくてアホな人”。両者にはとても距離があり、普段はまず絡むことがない。その二人が絡み合うことに、エンターテインメント性が生まれます。アカデミックであることが主題ではないけど、欠かせない舞台装置になっている。その塩梅が、学術系イベントの入口としてちょうどいいのではないかと感じます。

といっても、今回のイベントだと、芸人側がピースの又吉直樹さんなので、いわゆるテンプレの芸人というよりは文化人よりです。まだ開催されていないイベントにあれこれ言うのは野暮なのですが、かしこい芸人とバカができる研究者みたいな構図になると、すごく残念だな、という気はします。

ちなみに似た仕立てのイベントとして、京都大学の「京大変人講座」があります。こちらは、探偵ナイトスクープで人気者だった越前屋俵太さんと京大の研究者による対談イベントで書籍化もされて話題になりました。「ほとんど0円大学」でもレポートを掲載させてもらっています。

越前屋さんは芸人ではないのですが、我々一般人の代表として「みなさんもご存知だと思いますが……」という、研究者がナチュラルに要求する高い知的ハードルに対して、「いやいやわかりませんがな」と果敢につっこみを入れてくれます。我々一般人としては、その掛け合いが面白いし、わからないのは自分だけじゃないというか、自分のせいじゃないという安心感を得られるので、ストレスなく新たな知識に向き合えるんです。

なにはともはれ、知的好奇心が高くない人に、学術系イベントに来てもらうべきかどうかは、シンプルながら悩ましい問いです。もしこの問いの答えが、来てもらうべき、なのであれば、アカデミックではない何かを絡ますというのは、数少ないアンサーの一つになるはずです。そして、おそらく絡ますことで面白さを強く打ち出せるのは、東大や京大といった誰もにアカデミックだと認められている大学です。うまくイベントをつくらないと、世間にこびを売るような見え方になってしまうかもしれません。でも、知ることの面白さを伝えるのも大学の使命、と捉えて、ぜひこういう取り組みを積極的に展開していって欲しいものです。

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