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明星大学の研究広報誌「LiT」から考える。研究広報の質を左右する”研究のビジュアル化”のこれから

少子化が進むなか、新たな資金獲得の可能性を模索しないといけないことも関係しているのでしょうか。近年、研究広報に力を入れる大学が、徐々に増えてきている印象があります。今回、見つけた明星大学の取り組みも、そんな研究広報に関わるもので、理工系学部の研究に特化した広報誌を新たに発刊したようです。研究広報は、いろいろな理由で難易度高めなのですが、AIの発展で今後は少しやりやすくなるかもしれません。

プラットフォーム構築をめざす、研究広報誌

ではまず、どんな広報誌なのでしょうか。冊子のタイトルは「LiT」。中身はとてもシンプルで、明星大学の研究活動の紹介、学生、院生、卒業生の研究をテーマにしたインタビュー、イラストレーター・もんでゆうこさんによるキャンパス紹介、そして研究関連のTOPICSという構成です。ページ数は、表紙まわり含めて20ページ。多すぎるわけでもなく、少なすぎるわけでもなく、ちょうどいいボリュームの冊子です。

研究広報誌「LiT」創刊号(PDFはこちら

ちなみに「LiT」というタイトルは、「Link to~」からきているようです。タイトルに込められた思いや取り組みのねらいについては、広報誌発行とともに開設されたWeb版「LiT」に書かれていたので、こちらを掲載させてもらいます。

Web版「LiT」のABOUT(はじめに)より

このテキストを読んで興味深かったのは、めざすものが産業界や地域とのプラットフォームであるということです。

研究広報とプラットフォーム構築にはかさなる部分はあるものの、かさならない部分の方が多いように感じています。さらにプラットフォームを念頭に置いて研究広報するなら、冊子より関係性づくりがしやすいイベントであったり、研究シーズを探しやすいデータベースに力を入れた方がいいのではないか?という気も。そういったなか、あえて冊子(と、そのWeb版)というスタイルを採用としたのか。そこの狙いは気になるところです。

研究紹介のビジュアル化が研究広報誌の質を左右する

広報物という視点で見たとき、「LiT」は非常に魅力的です。とくにデザイン、なかでもビジュアルの美しさがステキだと感じました。というのも研究紹介のビジュアルって、すっごく難しいんです。取材時に撮影できるものって、研究者のポートレートぐらいしかなくて、それをメインに使っても研究内容がわかるわけではない。さらにいうと、すべての研究がビジュアライズできるものをテーマにしているわけではありません。そういった状況のなかで、研究活動の抽象的なエッセンスを視覚化して、読者の知的好奇心を刺激するような表現にうまく落とし込んでいると感じました。

「LiT」創刊号の研究紹介ページ

そして、研究活動のビジュアル化がうまくできているから、そのあとに続く、院生、学生、卒業生のインタビューが活きているんですね。研究紹介というのは、要は研究者(教員)のインタビューなわけです。ここのクリエイティブが弱く、研究者のインタビューっぽさが出てしまうと、その後のインタビューと地続きになってしまい、後半が立たなくなる。そしてそうなると、おそらく広報誌のテーマが「研究」ではなく「人」だと読者に受け取られてしまって、広報誌の位置づけ自体がブレるように思います。

「LiT」創刊号の院生、学生のインタビューページ

画像生成AIは研究広報の救世主となりえるか?

「LiT」のように研究活動をうまくビジュアライズすることができたら、広報誌としてのクオリティを維持することもできるし、誌面展開の幅も広がります。でも、このビジュアル化って、そうそう簡単なことではありません…。と、ここまで考えて、今後こういった表現を考えるうえで、画像生成AIを使っていくのはどうなのかと思いつきました。ためしに、先ほど誌面を載せた「LiT」の研究紹介「コンピュータはどのように人の言葉を理解するのか?」のイメージ画像を意識して、「心の理解 コンピュータ」という指示でAdobeのFireflyで画像を作ってみました。

Fireflyで生成した画像

うーん、もうひといき、ふたいき、さんいきぐらい!という感じです。その後いろいろと試したところ、私のスキルではそのまま使うのは厳しそうだけど、ビジュアルを考えるうえでのヒントにはなるかな…ぐらいのものはできました。

今後、AIの性能がさらに上がれば、インタビュー記事を全部プロンプトに入れて、この記事の挿絵を作成して欲しいという依頼をすればできるようになるかもしれません。また、記事もインタビュー音源があればAIがいい感じに記事化してくれる、そんな時代もやってきそうです。とはいえ、画像にしろ、記事にしろ、研究の芯にあるものが何かとか、何を伝えたいのかとかを、人間側が理解できていないとアウトプットの良し悪しを判断できなくなります。そういう意味では、今後AIの性能があがっても、すべてAIにおまかせするとはいかないのでしょう。

研究広報の活性化は、大学はもちろん、社会にとっても有益なことです。そういう意味では、AIによって今後より手軽に研究広報ができるようになることは、とてもハッピーなことだと思います。でも一方で、手軽になることで、目的がぼやけた研究広報が乱発されると、研究広報そのものの質が落ち、誰も見向きしなくなるということも起こり得ます。今後、AIの性能がさらに上がっていくことは確実なので、どうすれば賢く活用できるのかを考えながら使っていきたいなあと、月並みながらあらためて思いました。

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