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値段や便利さだけでは変わらない。真にリカレント教育を推進する、大人の可能性のフタをこじ開ける取り組み。

学生たちにとってはなじみ深いインターンシップ。このインターンシップを、大人向けに開催する事業を、京都大学の学際融合教育研究推進センターと、京都府や京都市等で構成される「京都文化力プロジェクト実行委員会」が一緒になって進めているようです。この取り組み、ユニークで楽しそうなだけでなく、リカレント教育を推進していくうえで、とても大事な示唆を含んでいるような気がします。

ではまず、『大人のためのインターンシップ(文化交換)』がどのような取り組みなのかですが、これは簡単に言ってしまうと、インターンシップ参加希望者が、自分たちの職業を1日~1週間程度、それぞれで交換しあったり、体験しあったりするという取り組みです。シンプルですが、だいぶ思い切った取り組みです。交換……できるの?とすごく気になります。

個人的に惹かれたのは、企画内容もそうなのですが、「企画背景」に書かれた文章、とくに出だしの一節です。こちら引用しておきます。

労働の人手減が深刻化する一方、人生100年時代となり終身雇用制度も崩壊しつつあり、ひとつの仕事だけをする人生プランが描きにくくなっています。社会人の学びなおしの重要性が指摘されていますが、そのきっかけを社会人が自主的に見つけるのは難しいのが現状です。

ここに書かれている、学び直しのきっかを自主的に見つける難しさ、というくだりを読んで、激しく首を縦に振りました。私はリカレント教育関連のプロモーションを、いくつかお手伝いさせてもらっているのですが、どうしても“学びたいと思っている社会人にいかに選んでもらうか”という視点での情報発信が主になります。かけられる広告費も有限なので、これはある意味で仕方のないことだと感じています。

でも一方で、“学びたいと思っている社会人”が、そもそもそんなに多くないんですね。以前、noteの記事に書かせてもらったのですが、勤務外の時間を使って自己研鑽をする人が、日本は他国と比べて圧倒的に少ないのです。

このときのnoteの記事では、日本人は他国に比べて上昇意欲が低いようで、それは本人の問題でもあるけれど、企業や社会にも原因があるよね、といったことを書きました。

リカレント教育を推進していために、企業や社会が変わっていくべきなのかというと、そうだと思います。でも、アプローチはそれ以外にもあるはずです。今回の『大人のためのインターンシップ』は、そんな別視点からのアプローチとして、とても有用なように思うのです。

ifを体験することで、得られるもの

社会人が学び直しをしない理由を煎じ詰めると、それは「自分の可能性に自分でフタをしているから」という、ひとことに尽きると思います。

何かにチャレンジしてもたぶん失敗するだろうとか、時間やお金がないからやりたくてもやれないと思うとか。そもそも、自分が今の自分ではない何かに変われるという発想自体が思い浮かばない、とか。忙しく毎日を過ごすなかで、現実や常識に絡みとられてしまい、自分が変われるということを考えられなくなってしまっている人は多いように思います。

『大人のためのインターンシップ』は、そんな大人たちに、今の仕事、今の自分ではない、ifを感じてもらう取り組みとして、とてもストレートでわかりやすく強烈です。今とは違う人生をわずかな時間でも体験することは、自分のなかに根を張った現実や常識をはがすことにつながるはずです。

もちろん、何かを感じ取ったからといって、すぐリカレント教育を受けようという発想にはならないかもしれません。でも、現在、多くのリカレント教育を推進する大学や企業が力を入れる、より便利に、よりリーズナブルに、といったアプローチだけでは、決して届かない人がたくさんいるし、その人たちを変えていかなければ、リカレント教育をとりまく環境を根本から変えることはできません。そういう”届かない人たち”へのアプローチとして、『大人のためのインターンシップ』は、何というか一つの型として成立しているように思うのです。

人は変われる、変わるための手段として、学びというものがある。この単純な事実を実感してもらうためのさまざま工夫や取り組みを、いろんな組織が、いろんなかたちで社会に提供していくと、リカレント教育人口は少しずつ増えていくでしょうし、世の中も今より少しは明るくなるはずです。

こういった施策は国が音頭をとってやるのが一番自然なのだと思います。でも、だからこそ、リカレント教育に関わる機関が能動的にこういう取り組みをはじめると、目立つし、ブランディングという意味合いでも価値があるのではないでしょうか。テクノロジーの進歩だけでは、リカレント教育は変わりません。リカレント教育を真に推進するために、大人の可能性のフタをこじ開けるような取り組みを、ぜひリカレント教育に関わる大学や企業には取り組んでもらいたいし、私はそのお手伝いがしたいです。

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