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ターゲットを”距離感”でとらえ直す?清泉女子大学のオウンドメディアで考える、新視点のコミュニケーション

大学の魅力を読み物にして丁寧に伝えるオウンドメディア。今や取り組んでいない大学の方が少ないのでは?というほど、大学の情報インフラとして定着してきた感があります。今回は、このオウンドメディアを清泉女子大学が新たにはじめたというリリースを見つけたので、こちらについて取り上げていきます。

”お手紙”を届けるような、あたたかみのある情報発信

清泉女子大学が開設したオウンドメディアの名前は「Otegami」。「お手紙」という名前からもわかるように、とても距離感が近く、あたたかみのあるサイトになっています。

清泉女子大学オウンドメディアサイト「Otegami」

このサイト、少しマニアックな視点でいうと、コンテンツの組み立てに、縦軸と横軸があるところが特徴的です。縦軸にあるのは「キャンパスライフ」「学び・研究」「キャリア」「留学・国際交流」「旧島津家本邸」「その他」。横軸となるのは「Seisen Diary」「Patio de Seisen」「清泉女子大学のイベント」。コンテンツは縦軸となる6つのカテゴリのどれかに分類され、なおかつ横軸となる3つのコンテンツ種別のどれかに該当する、という考え方です。よくあるのは縦軸+タグでの分類なのですが、「Otegami」の設計はそれよりもしっかりとコンテンツ内容を吟味しておかないと、成り立ちにくいつくりになっています。

さらにもう一つ特徴的なのは、縦軸に「旧島津家本邸」があるところ。これだけすごく具体的で、清泉女子大のアイデンティティを感じさせます。ちなみに「旧島津家本邸」は国の重要文化財に指定され、春と秋に一般公開もされている同大学の象徴ともいえる建物です。おそらく、この建物の魅力や関連するイベントが、このカテゴリでは取り上げられるのでしょう。

あとこれは清泉女子大のオウンドメディアに限ったことではないのですが、カテゴリに「その他」があるものを、時々目にすることがあります。これって実はけっこうNGだと思うんですね。ユーザー視点で見たとき、何か知りたい情報や興味があってサイトに訪れるわけで、そういう人が「その他」をクリックすることって、ほぼありません。運営側の心理からすると、長期的にサイト運営をするうえで保険となるカテゴリが欲しくなるのはすごくわかります。でも結局はユーザーにとって不親切だし、大学にとってもここに収めた記事は見てもらいにくくなるので、お互いにとって不幸です。事前に想定して、「その他」が生まれないように計画するのがベストですが、まあそうもいかないので、どこかで再整理することを前提にしつつ、少なくとも今、想定できるコンテンツをきちんと収められるようにカテゴリをつくるのがベターだと思います。

自大学との”距離感”でターゲット層をとらえ直す

……なんか話がだいぶ横道にそれてしまいました。今回noteで「Otegami」を取り上げたかったのは、サイトの立て付けの話ではなく、ターゲット設定について書きたかったからです。ここからはその話をさせてもらいます。

まずいきなりなのですが、極論を述べるとオウンドメディアのターゲット設定というのは、2タイプしかないと思っています。ひとつは、従来の情報発信ではリーチしにくい、もしくはできていない層に情報発信するというもの。研究系のオウンドメディアはまさにこれで、普段大学のウェブサイトに訪れない人に向けて、話題性のあるトピックやテーマと研究者の知見・研究成果を掛け合わせて記事化することで、大学の認知拡大&ブランド価値向上をめざします。もうひとつは、すでに接点のある層のなかの特定の層により特化した情報発信を行うことで、さらに密なコミュニケーションを実現しようというもの。これは受験生向けのオウンドメディアが代表例になります。

今回の清泉女子大のオウンドはどちらなのかというと、後者に近いものの、それだけではないんですね。リリースには、「在学生・受験生、高校教員、卒業生をはじめ、広く一般に向けて」と、ものすごく幅広いターゲットが書かれています。このターゲット設定って、大学の公式HPとほぼ、というかまったく同じです。であれば、大学公式HPの「お知らせ」で事足りるのでは?と思ってしまいます。

清泉女子大のオウンドはいらないのではないか……そう考えてしまいそうなのですが、別角度から考えると、あながちそうでもないように思うんです。というのも、ターゲットをカテゴライズして見ると公式HPとだだかぶりなのですが、ターゲットと大学との“距離感”という視点で考えると、公式HPと「Otegami」ってけっこう違うように感じるのです。

「Otegami」はタイトルからもわかるように、取り上げる情報がすごくリアルで日常的、つまり“お手紙”を書くような距離感の人に向けて情報発信をしています。読んだ印象だと、親戚のおばちゃんに伝えるぐらいの距離感かな、という気がしました。

「Seisen Diary」では、手描きのスケジュールで学生が自身の活動を説明する

学生がどんな日々を過ごしているか、であったり、大学でどんなイベントがこの日にあったのか、など。初対面の人には響かないけど、大学に対して興味や帰属意識をもっている人には魅力的に感じられる情報を、その人らに向けた口調で伝えていく。取り上げる題材は、公式HPとはそこまで大きくは変わらないのかもしれないのですが、その取り上げ方のスタンスや表現にはけっこう違いがあるように感じました。

ターゲットが同じであっても、距離感が異なるのなら、表現も変わるし、メディアを切り分ける意味も出てくる、「Otegami」はそういった視点に気づかせてくれるプロジェクトです。ただ、公式HPの主要ユーザーより、もうひとつ距離の近い人たちとのコミュニケーションを丁寧にやることの意味については、すぐにこれだ!という答えは思い浮かばなかったです。ぼんやりと大事だというのはわかるのですが…。とはいえ“距離感軸”というのは、企画を考えるうえで、ひとつのヒントになりそうです。大学広報、とくに入試広報の戦略は、ついどの大学も似がちなので、視点として頭に入れておいてもいいかもしれません。

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