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成功の鍵は”しっくり感”!? 日本女子大のリリースから考える、誰にどう伝えるとブランディングは動き出すのか

大学だけではないのですが、組織の在り方を印象的に伝え、ブランディングに寄与するものとして、タグラインというものがあります。タグライン?という方は、よく大学名や会社名のロゴタイプの上や下についている、アレというとピンとくるかもしれません。

今回、日本女子大学が創立120周年を記念して新たなタグラインと、その意味内容を伝えるステーツメントをつくったようです。タグラインの内容もそうですが、リリースの出し方がいいなと思いましたので、今回はこちらについて取り上げていきます。

策定のプロセスを感じさせる、プレスリリース

日本女子大が今回、策定したタグラインは「私が動く、世界がひらく。」というもの。なんとも女子大らしく、たおやかな印象がありつつも、力強さを感じさせます。このタグラインは、同大学の教育理念である三綱領「信念徹底」「自発創生」「共同奉仕」をひも解き、どんな人材を輩出していきたいかという想いを込めてつくったとのこと。

このタグラインのリリースを見て、すごくいいと感じたのは、「策定のプロセス」についてちゃんと言及されており、さらにその様子がわかるビジュアルまで添えられていたことです。タグラインだけではないのですが、ブランディングというのは、その過程が伝わってこそ意味があると思っているので、こういう見せ方はいいなあと思いました。

タグラインの”しっくり感”はどうやったら伝わるのか

これまでに私もタグラインづくりをお手伝いしたことがあるのですが、結局は我々とは何者なのかとか、どこをめざしているのかといった自問自答の結果を煮詰めたものが、タグラインなのだと思います。もちろん、作成する過程のなかで、ターゲットにウケるものは何か?みたいなことも、意識的、無意識的に考えたりもします。でもそういった視点から出てくるものって、ぜんぜんしっくりこないんですよね。結局、自分たちとは何者なのかをつかめていないと、これって他大学でも言えるよね?と、心の中の声であったり、周囲からのリアルなツッコミが入ってボツになってしまいます。

一方で、これ、めっちゃしっくりくる!と感じられる言葉を見つけたとしても、それがわかるのは、“我々とは?”にしっかりと向き合えたタグライン策定メンバーぐらいなんですね。他の人は、いい言葉だなあと感じても、それがその大学らしいかと問われると、深いところでは判断がつきません。ではそういったなかで、タグラインを学内関係者に認めてもらうにはどうしたらいいかというと、言葉の成り立ちを説明することと、策定されたプロセスを伝えること、この両方が必要だと思っています。

というのも、単にタグラインの成り立ちを説明するだけでは、なぜこの言葉なのかはよくわからないんです。タグラインの場合、数学のように答えがあるわけではなく、無数の候補があるなか、そのなかにある一つを答えに押し上げているわけです。そういった答えに説得力を与えるのは、関係者が納得するまで議論をしたことであったり、いろんなかたちでいろんな人の意見を吸い上げたことであったり、そういったプロセスの厚みや丁寧さ、またそれが裏付けにあったうえでの関係者が語る“しっくり感”だったりします。

言い方を変えると、関係者の熱量を見える化して理屈とともに伝えることで、無理やりしっくりさせる、というのがタグラインを使いはじめだと思うのです。そして、使い続けることで(これも広い意味では策定プロセスの一部)、徐々にしっくりとくる人が増えていき、タグラインは名実ともにその大学のタグラインになっていくのだと思います。

今回の日本女子大は、非常に端的な情報発信であるプレスリリースで、こういった「策定のプロセス」を上手く伝える(というより感じさせる)ことができおり、そこがステキだと感じました。

ブランディングの鍵は、プロセスを誰にどう見せるか

自分たちで“答えをつくり出す”という活動は、タグラインだけでなくブランディング全般にもいえます。私自身、大学のブランディング活動に携わる中で、ブランディングは在りたい姿を伝える取り組みであり、伝える先は、半分は外部で、半分は内部だと感じています。外部にはそのように見て欲しい、内部にはそうなるように頑張って欲しい、表現しているものは同じでも伝えたいメッセージは異なるわけです。

外部に対しては、言葉そのものやそこから感じられるイメージと大学とがひも付けられたらOKです。でも、内部にはそれだけでは不十分で、実際にそうなるように動いてもらえるだけの理解度が求められます。つまり、しっくりきてもらう(=上手にプロセスを見せる)というのは、内部にこそ必要になります。とはいえ、内部向けの資料は必要な人以外は、なかなか見てくれないので、外部に向けて伝えることで、内部に浸透させるというのが、ブランディングの伝え方としてはいい気がします。なんというか、新聞広告にしろ交通広告にしろ、外部に向けて情報発信しているのに、結局しっかり見てくれてるのって学内関係者なんですよね…。

とくに今回、取り上げたタグラインというのは、名刺に載せる肩書みたいなものです。肩書が人をつくるように、タグラインが大学をつくるという側面が多分にあるので、さまざまあるブランディング施策のなかでも、とりわけ学内関係者にしっくりきてもらいたいもののように思います。

ブランディング活動を推進するうえで、誰にいかにしてプロセスを見せるか。あまり意識しないことですが、アレコレと考えると、実はとても大事な観点なような気がしてきます。うーん、こういうのって難しいけど、考えれば考えるほど面白いですね。

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