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夏を待つ

一人でテレビを見ていて、ふと、かすかな気配のような、わずかな物音に気づいた。ほとんど音もなく霧雨が降っていた。梅雨だなあと思いつつ、網戸を開けて洗濯物を取り込む。
窓を開けて過ごす日が増えた。夏が一日ずつ近づいている。

だいたいこれぐらいの時期から、スーパーの野菜売り場に行くのが楽しくなる。トマト、なす、ズッキーニ。しそ、みょうが。大好きな夏野菜がぐっと安くなるのが嬉しい。

ズッキーニは旬以外は高いから、安くなっているとつい買ってしまう。また買ってきた、と夫に笑われつつ、一時期私はせっせとラタトゥイユを作った。水は入れなくていい、というのはサルボ恭子さんの本を読んで知った。切りそろえた野菜にオリーブオイルと塩を振って、弱めの火で蒸し煮。シンプルで、野菜の味がよく出ておいしい。

夫の故郷の郷土料理の、だしもよく作る。きゅうり、なす、しそ、みょうが、オクラ。全部細かく刻んで、めんつゆで和えて冷蔵庫で冷やす。とにかくそれでいい、難しいことは考えなくていいんだ、と夫は教えてくれた(本来の作り方がこれでいいのかは知らない)。冷奴にかけてもいいが、一番は熱いご飯にたっぷりのせるのがいい。朝から暑くて食欲が失せる日も、これならするする入る。

コーヒーメーカーの出番もめっきり減る。喫茶店用と書かれたそっけない紙パックのアイスコーヒーがおいしいことを去年発見して、暑い間はずっとそれを買っていた。簡単でおいしい。ついでに洗い物も減っていい。

夏はいい。シンプルで、簡単で、手間いらずだ。服だってどんどん薄く、軽くなる。思いきり汗をかいたら着替えて、洗ってもすぐ乾く。単純明快、身軽なことこの上ない。
だからいつもより遠くに行ける。いつもより早く訪れる朝を、心地よい水の冷たさを、誰かとげらげら笑って過ごす終わらない夜を、しっかり心に焼き付けられる。そうやって夏を過ごして、私は大人になった。

去年の夏、子どもはまだつかまり立ちだったから、外に行っても出来ることは限られていた。甚平を着せて夏祭りに行っても見ているだけだったし、海でも、波にこわごわ足をひたして終わった。今、子どもは焼きそばが大好きで、お風呂ではお湯をはね散らかして遊ぶ。お祭りも海も、きっと大喜びするだろう。
今年の夏は、きっと去年よりもっと楽しいよ。いっぱい遊んで、いっぱい洗濯しようね。

耳をすませて、雨の向こうの夏に少し思いをはせた。

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