ほとりとあかり

いつか緑の中に小さな家を持って、毎晩暗くなる木立を眺めながら、小さなあかりをつけて暮ら…

ほとりとあかり

いつか緑の中に小さな家を持って、毎晩暗くなる木立を眺めながら、小さなあかりをつけて暮らしたい。それがもしも湖のほとりであったなら、どんなにか。本とお酒と温泉が好きな30代です。夫と小さな子と三人で暮らしています。

最近の記事

2歳のstay at home

遡ること約二週間前、私のTwitterのTLに州知事の衝撃的なツイートが流れてきた。「皆さんの健康を守るため、自宅にいてください。残念ながら、スポーツや友達との集まりも禁止です。stay at home」。 私は元来インドア派で、夢は湯治という人間だ。もし一人暮らしとか夫と二人だったらこの状況はむしろ歓迎していたかもしれない。しかし、現実にはうちには元気いっぱいの二歳児がいる。公園の遊具も使わず、お出かけもせず、お友だちとも会わずに二歳児と過ごす。期限は未定。いや無理だろ。

    • 春が来た(私にとっての非常事態宣言)

      1年限定でアメリカに住むことになって、早くも残り4ヶ月(のはずである、今のところ)。去年の夏にこの地を踏んだ時、まさかこんなふうに春を迎えるとは想像もしていなかった。 今、私のいる州は自宅滞在命令が発令中だ。必要な買い物や通院、散歩を除き、自宅にいることが義務になっている。公園で散歩することはできるが、遊具は使用禁止、サッカーや野球なんかのスポーツも禁止。違反したら罰金だ。多くの方が書いている通り、この状態になるのは本当にあっという間だった。目新しい情報など何もないけれど、

      • 怒る子ども

        12歳の頃、私はしばしば、世界に対して怒っていた。 ニュース番組を見たり新聞を読んだりして、今世の中で何が起きているのかを知って、それに対して自分の意見を持ち始めた頃だった。先生や両親とニュースを話題にする機会も増えた。話相手になるのはとりわけ父が多かったように思う。父は毎晩晩酌しつつ、ニュース番組にああだこうだ言い、子ども相手に議論を吹っかけた。要は酔っ払いがクダを巻いているのだけど、私はそんな時間が嫌いではなかった。社会について知ったり考えたりするのは面白かったし、大切

        • 愛するわがアパートメント

          アメリカでは、アパートメントごとにホームページを持っていたりする。なんならFBのアカウントもあって、過去の入居者のコメントも読める。夫は一人で家の下見に行ってきて、いくつか候補の物件のホームページを教えてくれた。アパートのホームページ?何それ??と困惑しながら見入ったのを思い出す。「ここは古いけど、何だか感じが良かったよ」と夫が言った、その物件が今の私たちのアパートメントだ。 このアパートメントが建てられたのは60年代らしい。アパートメントと言うけれど、日本でいうとマンショ

        2歳のstay at home

          紙と積み木とアンパンマンと

          うちにはもうすぐ2歳になる子どもがいる。アメリカに来るとき、彼の身の回りのあれこれをどうするかは地味に悩んだ。 服は、去年のものはどうせサイズアウトするだろうから、大きめだけ選んで足りない分はこちらで買うことにした。日本語には触れて欲しいから、絵本は送れるだけ送った。オムツは圧縮袋に入れて、4パック分くらい。日本と比べるとアメリカのはゴワゴワして感じられると思うよ、慣れるまで大変かも、という友人のアドバイスを聞いて、生活が落ち着くまでの間、オムツで悩まずに済むよう少し多めに

          紙と積み木とアンパンマンと

          一度だけの季節

          先週から、日本を離れてアメリカで生活している。期間限定、たった一年のアメリカ生活だ。 分かっていたつもりだったが、日本育ちの私の目から見ると、こちらは何もかもでかい。空がでかい。スーパーがでかい。借りているアパートも、そう高くはないが部屋がでかい。アパートは公園に面していて、この公園がまたでかい。一面に芝生が広がっていて、真ん中にサッカーのグラウンドが一つあるのだけど、その気になればもう10個ぐらい入りそうだ。その芝生が終わるあたりから森が始まり、舗装された散策路が公園の端

          一度だけの季節

          私たちにはビジネスホテルがある

          1歳半の子どもと2人で、一泊二日の小旅行をした。 大好きな絵本の原画展が近くの大きなまちで開催されていて、どうしても行きたかった。夫は仕事が忙しいし、美術館もあまり好きではない。そこで、子どもと2人で行ってしまおうと思いついた。ちょうど夫は出張の予定が入っていて、数日子どもと2人きりの予定だ。ならば、なるべく楽しく過ごそうではありませんか。 行き先は近場だが、少し緊張した。何しろ帰省以外で子どもと2人で泊まりで出かけるのは初めてだ。何が起こるか分からない。それに、目的地ま

          私たちにはビジネスホテルがある

          もっと、他愛ないことを ー『るきさん』

          高野文子のマンガはどれも好きだけれど、『るきさん』はその中でも一番初めに出会って、一番多く繰り返し読んでいると思う。とにかく大好きな作品だ。 るきさんは自宅で保険請求の仕事をしている。仕事が早いので、1ヶ月分の仕事が大体1週間で終わる。そうすると、図書館へ行ったり、趣味の切手集めをしたりしている。独身、彼氏はおらず一人暮らし。食事のときはちゃぶ台の前に座り、多分食卓には焼魚やおひたしやおとうふが並んでいるはずだ。 地に足の着いた、至って堅実な生活ぶりだけど、るきさんはちょっ

          もっと、他愛ないことを ー『るきさん』

          かっこわるい自由 ー『島暮らしの記録』

          ムーミンシリーズに『ムーミンパパ海へ行く』という一冊がある。ある日、ムーミンパパが島で暮らしたいと言い出し、一家は美しい森に囲まれたムーミン谷を離れて、荒涼とした島で生活しはじめる。島での暮らしはこれまでとは勝手が違い、何もかも思い通りにならず、ムーミンたちは長いこと悩み続ける。その描写が読んでいてちょっと苦しくて、子どもの頃、大好きなシリーズの中で、一冊だけ少し苦手に思っていた。 著者のトーベ・ヤンソンも島で暮らした経験が長かった。これは、トーベが無人島に小屋を建て、そこで

          かっこわるい自由 ー『島暮らしの記録』

          夏を待つ

          一人でテレビを見ていて、ふと、かすかな気配のような、わずかな物音に気づいた。ほとんど音もなく霧雨が降っていた。梅雨だなあと思いつつ、網戸を開けて洗濯物を取り込む。 窓を開けて過ごす日が増えた。夏が一日ずつ近づいている。 だいたいこれぐらいの時期から、スーパーの野菜売り場に行くのが楽しくなる。トマト、なす、ズッキーニ。しそ、みょうが。大好きな夏野菜がぐっと安くなるのが嬉しい。 ズッキーニは旬以外は高いから、安くなっているとつい買ってしまう。また買ってきた、と夫に笑われつつ、

          長い旅

          大学入学と同時に、本州の地元を離れて札幌で一人暮らしを始めた。しばらくして北海道のガイドブックを一冊買った。まだ免許もなく、車でどこかに連れて行ってくれる友達もいない頃だったと思う。せっかく北海道に住むのだから色々な観光地に行きたかった。 そのガイドブックの後ろの方に、青空をバックに、流木のような枯れかけた木々が草原に並んでいる写真があった。トドワラと呼ばれるその木々は、原生林だったところに海水が流入して、立ち枯れてこの状態になったらしい。「荒涼とした風景が魅力。年々風化が進

          優秀な消費者

          もういい加減飽きたな、と思った。 働くのは特別好きではない。迫る締め切りにはらはらするのも、苦手な人とやりとりするのも、すごく疲れる。疲れて、帰ってくるとビール飲んで横になる以外何もしたくなくなる。散らかる部屋、やっつけで作る晩ごはん。夫ともしょっちゅう喧嘩した。 子どもが生まれることになって、環境その他諸々の事情を考えて仕事を辞めたとき、だから大分ほっとした。子どもの世話をせっせとして、家事は苦手だけどせめて夜ぐらいはおいしいごはんを作って、合間に好きな本を読んで、と新

          優秀な消費者