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放浪No.20 知らぬ世界へ飛び込む

特に目的を持たず、気ままに自転車を走らせているとポツンと建つ小屋のような居酒屋を見つけた。
そこへ何となく吸い寄せられしまい、ガラガラっと扉を開けて「こんばんは、初めてで一人ですが入ってもいいですか?」と挨拶をする。
店員さん、お客さんの全員がこちらを見つめ、しばし沈黙したあと「どうぞ、こちらの席(カウンター)でお願いします。」と案内してもらい、席へ着く。
お通しをもらい、頼んだビールを待ちながらテレビに映るご当地CMを熱心に眺めていると、店員さんに「はい、ビールおまたせ。お兄さんはどこかでこの店を知ったの?」と聞かれた。
ことのあらすじを伝え、近くのインターネットカフェを拠点にふらふらとしていたら偶然見つけたので入った旨を伝えた。
他のお客さんも俺に興味津々なようで「爺婆ばっかんとこによく来たな」と声をかけてくれた。
唐揚げを頼み、ビールを飲みながら店員さんやお客さんたちと色んな話をしていたら、急にその中の女性が隣の席に座ってきて驚いた。
何やら何かを信仰しているらしく、一緒に信仰しましょうと激しく勧誘されたので…これはヤバいなと思った。

話を逸らそうとするも強制的に会話を戻されるし、ほかのお客さんは「ああまた始まったよ」と笑っていて、危険な店へ足を踏み入れてしまった後悔があふれてくる。
そして、1から作られる唐揚げを頼んだ自分を恨んだ。
唐揚げが出てくるまでの間、のらりくらりと会話をはぐらかしながら心の中で「早く食べて出よう」を永遠に唱え続けていた。
出てきた揚げたての唐揚げを無言でほおばりビールで流し込む。
そんなことはお構いなしで隣に座る女性は焼酎をあおりながら壊れたロボットのように信仰の話を永遠とループさせる。

すると他のお客さんが痺れを切らして「なんなんだよ!さっきから!」と怒り始めた。
あ、少しは常識のある方がいて良かった…と思ったのも束の間

「お前!わけえやつに色目使ってよ!
 そんでさ、お前もお前だよ!よそ者が何しにきてんだ!」

ああ、一瞬でも希望を持った俺が馬鹿でした。
残りの唐揚げをビールで一気に流し込み、店員さんにお会計をしてもらい、そそくさと退散したのである。

自転車を押しながら、もう少し酔っていたら俺も我慢しきれなかったかも…と思いつつコンビニへ寄り、カップラーメンと缶ビールを買ってブースで一人飲みをしなおした。

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