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電波鉄道の夜 12

【承前】

 歌、雑談、プロデュース業、便利屋、廃品回収、寝かしつけ。
 セロリモネの活動は多岐に渡る。
 とりわけ人気があるのは公開お悩み相談室だ。手紙やメール、その他の電波などの手段を用いてファンからのお悩みを集め、放送の中で答えていくというコーナーだ。
 多種多様なファンからの多種多様なお悩みをときにズバリと、ときに柔らかく切り分けていく。僕も一度だけ読んでもらったことがある。心臓が止まるほど嬉しかったのを覚えている。

「まあ、電肢化はちょいちょいデメリットもあるから、しっかり自分で調べて納得してからやった方がいいよ。うん、そりゃ便利なことも多いけどさ、それだけじゃないこともあるみたいだから」
 
 人気の理由にはもちろん話の内容が面白いとか、他のファンと悩みを共有して一体感が高まるとか、そういうのもあった。けれども一番の理由は誠実でファンに親身な気持ちが、あけすけでぞんざいな言葉の向こうに透けて見えたからだ。
 どんなに小さな悩みにも、あるいは大きな悩みにも真剣に悩んで相談者のことを考えながら答えているのが伝わってくるのだ。

「で、次のお悩みは……ってなかなか長いな。」
 その時もモネはお悩みを見てやっぱりぞんざいな感想を漏らして続けた。
「えー『こんもねです。モネさん』はい、こんもねー。『いつも応援してます。少し困ったことになりました。モネさんを応援するためにお金を転がしていて、ちょっと研究所のお金を失ってしまいました。取り戻そうと拝借するうちにいつの間にかすっからかんになってしまいました。同僚にもバレてしまい研究材料にされそうになっています。どうか憐れな一人のファンに一言いただけないでしょうか』」

 お悩み読み上げの後、長い沈黙があった。
 長い長い沈黙だった。
 耳を傾けているファンたちが不安になる長い沈黙。
 沈黙の後、モネは深いため息をついた。
 それから、吐いた息より大きく息を吸って口を開いた。

【続く】


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