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映画「アイの歌声を聴かせて」の感想、あるいは全自動ストーカー人形の見る夢

 アニメ映画「アイの歌声を聴かせて」をみてきた。すごく良かったので感想を書いていこうと思う。

https://ainouta.jp/

https://eiga.com/movie/93749/

 例によってネタバレを含むので、まだみていない人はさっさと最寄りの映画館に行ってみてくるがいいのさ。
 ネタバレ抜きの素直な感想を言うと「すごく丁寧に作られた良く、楽しい映画だった」だ。うん、本当に良い映画だった。ぜひ一回は見てほしい。

 ネタバレ防止の為、ちょっと見に行った経緯でも話そう。しばらく映画をみてないので映画が見たくなって、でもアクション映画の気分じゃねえなってなったんだよ。「ノータイムトゥーダイ」とか「最後の決闘裁判」とか見ようかなとも思ったんだけど、なんかそういう激しいのをみたくなる精神の状態じゃなかった。
 そんなとき、あのときのとき=サンのツイートをみたのだ。

 そういえば、いつぞやなんか映画を見た時に予告編をみたなと思い出した。その時は「あー、タイミングが合えば見ようかな」と思ったのだ。なんか、よくある青春映画だろうなくらいに予測していた。
 タイミングがあったのと、あのときのとき=サンのツイートを見たのでちょっくら見てこようということになった。



以下にネタバレを含む



 さて、スペースは稼げただろうから本編の中身に入っていこう。
 改めて考えてみると、話の筋はそれほど目新しい筋ではない。
 予告編を見て予測したとおりだ。
「いろいろ悩みのある高校生たちのところに人工知能がやってきて、悩みを解決するけど、人工知能はどっかに連れ去られて、高校生たちは人工知能を助けに行く」
 それだけだ。

 それだけなのだけれども、その物語をすごく丁寧に丁寧に作った作品だ。
 そうだね。本当に「丁寧」なのだ。

 つれづれ考えてみたのだけれども、その丁寧さというのは語られる事項と尺の適切さがもたらしているように思える。
 高校生たちの悩みをAI搭載のアンドロイド、シオンが解決していくのだけれども、その悩みの提示と解決の尺がとても注意深く設定されている。
 なんだろう。イメージとしてこういうお悩みを解決していく系のお話って提示に時間かけすぎるとうざったくなるんだよね。基本的に悩みの提示の部分って暗い話になっちゃうし。
 でも、この作品の場合、あらかじめ絵や仕草、構図で誰がどんな問題がありそうかを示しておいたうえで、適切な順番でその問題を言葉にして提示して、解決していく。また、それぞれの問題が関係して発露したり解決したりしているので、物語の流れが切れない。
 かなりうまく調整された展開だと思う。

 加えて、問題の解決方法がふるっている。
 驚くなかれ、なんとシオンは歌を歌って解決するのだ。
 「歌って踊ればハッピーエンド」
 少し前に牛の署長は皮肉っぽくそう言ったけれども、本当にこの作品では歌を歌えば解決する。
 驚くなかれ、このアニメはミュージカルアニメだったのだ。

 とはいえ、完全にミュージカルかと言うとそうではない、と思う(私はミュージカルに関してはあんまり詳しくないのだ)。というのも、このアニメの中で、シオンの歌は他の登場人物にとっても歌として捉えられている。
 私の知る限りでは一般的なミュージカルの中の歌と言うのは何らかの象徴であって、実際に登場人物たちが歌っている場合はそんなに多くない、んじゃないかな。有識者の意見求む。
 でも、シオンが最初に自己紹介代わりにアカペラで歌を歌った時、他の登場人物は「何をやってるんだこいつ」みたいな目で見ていたのを思い出してほしい。これは我々にも理解できる反応だと思う。見知らぬ転校生が自己紹介もそこそこに突然アカペラで歌い始めたら、たぶん同じような反応するんじゃないかな。
 その次にシオンが歌う場面。音楽室で楽器をハッキングして(AIの街だから楽器も機械仕掛けなのだ)今度は全力力技で自分の歌をミュージカルにしてしまう。この場面大好き。大笑いしそうになった。
 ここで、この映画はミュージカルだということを宣言するわけだ。以降の歌でも一応、シオンのミュージカルは作中の機器をハッキングして演奏していると説明できなくもない状態で歌われる。
 そのため歌の中で感情が解決されるのではない。その歌を聞いたことによる聞き手の心情の変化が問題を解決する。

 //* ちなみに後半に明かされるのだけれども、このシオンが歌によって問題を解決しようとするのは、作中作で昔主人公のサトミが好きだった「ムーンプリンセス」といういかにもデズネーっぽいミュージカルアニメを軸にシオンが思考を構築していったからだのだね。*//

 //* もう一つ、このそれぞれの歌と言うのがまたすごく良いのだ。ちなみに音響監督は稲浪……じゃない岩浪美和監督だぞ! *//

 ミュージカルっぽく歌によって物語の解決がもたらされるので、非常にテンポよく物語が進んでいく。このテンポの良さのために後半の尺をとりたいシーンでしっかり尺をとってもストレスなく見ることができる。
 あ、これよく聞く話だな。たぶん時間芸術(映画とか演劇)の基本中の基本なんだけど、実際にここまで高度に実行するのは、そこまで簡単なことじゃない。

 物語の焦点も「シオンとサトミ」の関係にきっちり合わせられている。
 こういう設定だと、大企業と民間人みたいなAI対人間みたいな展開も見せたくなる気がするんだけれども、サトミの人間関係を中心に据えて、シオンを作った会社の動きは二人に関係する部分だけを描くのみにしてある。
 パンフレットには(あんまりに良すぎて思わず買ってしまったのだ)構想段階では要素が多かったので整理した書かれていたので、この整理がうまく効いていたんだと思う。
 結果的に二人の関係に焦点が絞られる。悩みの解決の輪も二人の物語につながる。いや、ゆうてもう相当の巨大感情だよね。八年ごしの巨大感情。

 そう、つまるところ巨大感情の話なのだ。好きだろ、みんな。生まれた理由、進化、ずっと見守っていた、相手の幸せ、そういうの。
 歌も、構造もこの巨大感情に丁寧に丁寧に焦点を合わせてある。
 ああ、だから良いのだな。
 どこが焦点かわかっていて、そこに全部が向かっているんだ。
 「"Why you win"を見失うと負ける」と言うのはMTGの有名な言葉。逆に言うと自分の強みを知っていると勝てる。

この映画はそういう映画なんだ。

だから、良いんだなって、今こうして書いていてすごく腑に落ちた。改めてになるのだけれども(そしてここまで読んでまだ見ていない人と言うのもそんなにいないと思うけれども)、もしもまだ見ていない人はぜひ映画館に行って見てほしい。すごく上質な映画を見ることができる。

こういうのがあるから映画館で映画を見るのはやめられないんだよな

以下、いろいろこまごま好きなところ。

・不気味の谷:最初のシオンは少しロボット感を強調して少し不気味な感じに描かれているように思うね。最後のシオンは逆に人間っぽい感じになっているような気がする。

・全自動マヨイガ:自動的にカーテンが開いたり話しかけてきたりするの、なんだか先月に見た「岬のマヨイガ」を思い出したね。高度に発展した科学は云々

・星間社:書きようによっては完全に暗黒メガコーポだよね。そうしないあたりがこの映画をこの映画にしてるんだと思う。

・アヤちゃんの負けヒロイン感:ぶち可愛くない? あと取り巻きの二人が性格悪そうに見えて、普通にアヤちゃんを応援してるだけなのがすごく好き。

・トウマ:ハッキングスキルやばくない? と思いつつも、このくらいテックが発展した世界の小学生だったらこんなもんかと思わなくもない。 諸々のセキュリティがガバすぎる気もするがトウマのスキルがすごいのかな。
  あと、トウマがシオンにわかる言葉でシオンに話しかけた後に、アヤの反応に対してゴッちゃんが「それはよくない」みたいな反応を返すの、機械学習の反復っぽくて面白いなって思った。

・武道会:サトミがドレスを着る必然性はあったのか? 可愛いからいっか。

・武道=舞踏:楽曲"Lead Your Partner"の部分もよいよね。なんか武道会のギャグを拾いつつそう来るかって。曲調とひねり方がセクシー本堂を思い出したよ。

・副社長:なんかどっかで聞いた声だなと思ったら津田健次郎だった。ブネの人だね。ふふふ、私も声を聴いてピンとくるようになったか。基本的に嫌な奴だけど、登場場面で突然シオンが答えてびっくりするみたいなリアクションがあって、微妙に隙がありそうなキャラ付けが描かれていて良いですね。

・会長:ラストにしか出てきてないのに大物だなあ。実際、シオンかなりやばい代物なので秘密裏にやられるよりも会社の管理のもとで育てた方が安全だし、利益をもたらすと思うよ。

・お母さん:お母さん一人をとってもすごくいい性格の造形をしてると思う。とくに荒れてる場面。「言葉を繕える自信がない」だったかな。そういう裏面の発露は素敵。


うーん、本当にわりと当たってほしい作品だよなぁ。
こういう作品すごく好きだから、これが大ヒットして次の作品が出てくれると嬉しいんだけれども。
ポテンシャルはあると思うので、集客なんだよなー。
こんな記事じゃ屁のツッパリにもならんだろうけど、せめてもの一助になれればよいと思って記事を書いた。

〆の言葉は一つだ。

見に行け。

 

 

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