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電波鉄道の夜 68
【承前】
首を傾げる。僕の目指す先はずっと変わらない。
「いいえ、なくしてなんかいません。僕はモネを探しているのです。ずっとそうでした。これからもそうです」
車掌さんの目を見つめ返して言い返す。この言葉には中身があるのだろうか。たとえすかすかの言葉でも他に言えることはない。他の言いようもない。
「そうですか、それなら探すしかないのでしょうね。探すべき導きがもうあなたから失われていたとしても」
「車掌さんは、モネを見ませんでしたか?」
念のため、尋ねてみる。車掌さんは目をつむり、ゆっくりと首を左右に振った。
「残念ながら」
「そうですか。もしも見つけたら教えてくださいね」
「ええ、わかりました。もしも、見つけましたら」
もしも、にアクセントを置いて車掌さんは言った。憐れむような、悼むような声だった。あの町で排水湖に落ちた恋人を探す女性に書けるような声音。
「電車の中を探すつもりですか?」
「ええ、そのつもりです」
少しだけ、苛立ちが返事に乗ってしまった。車掌さんは気にする様子もなく同じ口ぶりで言葉を続ける。すっと、前方の車両を指さしながら。
「強いていうのであれば、あちら側の車両がお勧めです。こちらでは」
そういって車掌さんは目線だけで後方を振り返った。
「私は見ませんでしたから」
「そうですか」
思いの外、筋の通った忠告に拍子抜けしてしまう。
「ありがとうございます」
「いいえ、仕事ですから」
間抜けな声でお礼を言うと、車掌さんは首を振った。
「それじゃあ、お兄さんもお世話になりました」
「いいってことよ。気をつけな」
男の人に向き直って挨拶をすると、軽薄そうな声が返ってきた。意外に思って顔を見ると、なぜだか責務から解放されたような表情をしていた。
「どうしたんですか?」
「いや、どうしようもないことはどうしようもねえんだなった思ってさ」
「はあ」
「まあ、見つかるといいな、モネさん」
その言葉は本心のように聞こえた。
【続く】
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