電波鉄道の夜 119
【承前】
揺れる布の炎が、ちかちかと記憶に火を点ける。灰の中の記憶。埋もれたキラキラが光を放つ。温かなそれを手に取る。そうだ。
「赤い髪飾りの女の子」
「どうした?」
女性が怪訝そうな目を向ける。その頭で揺れる髪飾りから目を離せない。記憶は灰の中を漂い続ける。きらきらは少しづつ強くなる。
「モネ」
口から言葉が漏れる。わからない言葉。不思議と落ち着く懐かしい言葉。ああ、そうだ。こんなところにいたんだ。
「誰だい? それは」
女性は不思議そうにたずねる。なぜ不思議そうなんだろう? 自分の名を呼ばれたはずなのに。
「モネなんでしょう。あなたは」
「違うよ」
きっぱりとした言葉。でもそんなはずはない。あの娘は確かにこの髪飾りをしていたはずなんだから。その記憶は確かで、それなら髪飾りをしているこの娘はあの娘で間違いないはずだ。
「意地悪をしないでよ。ずっと探していたんだよ」
「違うよ。そんな子は知らない」
女性は僕の目線をしっかり受け止めて答える。
「僕は」
それでも引くわけにはいかない。せっかく見つけたんだ。ずっと追いかけてきて、ここまで。もう離したくはない。だから口を開く。言葉を紡ぐ。紡ぎ続ける。
「君がいないと駄目なんだよ。なにもできない。できるとも思わない。でも、君がいれば、君がいてくれるためだったら、何だってできるんだ。何だってしてきたよ。傷ついても痛くても君の為なら平気だった」
言葉はとめどなく流れ出る。
「ねえ、だから、嘘はやめてくれよ。ずっと追いかけて、こんなところまで来たんだ。やっと追いつけた、もうなくさない」
女性は黙って僕の言葉を聞いている。僕の目をしっかりと覗き込みながら。
ため息。女性の口から深い深いため息が漏れる。
「良いのかい? 本当にあたしで」
はっきりとした口調で女性がたずねる。
僕は頷く。
「当たり前じゃないですか。君は君なんだから」
女性が微笑んで頷く。
汽笛が耳を劈いた。
【続く】
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