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電波鉄道の夜 26

【承前】

「ああ、そうだ」
 おばあさんはそう言って自分の鞄を開いた。中を探って、幾つかの万華鏡取り出した。一つずつ丁寧に窓の枠に並べていく。
 女の子と男の子は興味津々といった様子で眺めた。
「なあに?」
「好きなのを覗いてご覧」
 男の子が先に手を伸ばして、万華鏡の一つを手に取り目にあてがった。
「うわあ! なに、これ」
「なになに?」
 男の子が驚きの声を上げると女の子も急いで万華鏡を掴んで覗き込んだ。
「え」
 女の子はそう声を漏らすと、凍ったように固まってしまった。時々筒を回す以外はピクリともしない。
「万華鏡、ですか」
 二人の様子を見ながら先生が言った。
「ええ、よろしければ先生もどうぞ」
「それじゃあ」
 先生も万華鏡を一つ取って目に当てた。蛇の鱗のような模様の万華鏡だった。
「ほう」
 感嘆の声を上げる。
「きれいですね、これは」
「だろう。それは苺蛇の鱗が入っているやつだね」
「苺蛇?」
「知らないかい? 苺のような色をした蛇だよ。鱗がきれいでね。光の具合で赤く見えたり、青く見えたりするんだよ」
「ねえ、これは? 何が入っているの?」
 男の子が万華鏡の一つを示して言った。羽根の模様が刻まれた筒だった。
「それはオオトリバチの羽が入ってるよ。ほら緑にキラキラしてるのがあるだろう」
 男の子は筒を覗き込んだまま動かない女の子を見て、不思議そうに尋ねた。
「ねえ、そんなにきれいなの?」
「うん」
 女の子はぼんやりと生返事を返す。その筒は甲羅のような六角形の模様の刻まれた青白い。女の子は何かを探すようにじっと筒を覗き込んでいる。
「ねえ、おばあさん。あれには何が入っているの?」
「あれは、溶けない氷が入ったやつだね」
「ああ」
 男の子はおばあさんの答えを聞いて納得したように頷いた。女の子に優しく言う。
「ねえ、僕にも見せてよ」
 女の子はようやく筒から目を離し、男の子に渡しながら言った。
「うん、でもお母様たちが見つからないの」

【続く】
   

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